花曇りの空 | ナノ

02


「ジョーイさん……!」


ポケモンセンターの自動ドアを蹴破るようにして現れたミナト達に、名前を呼ばれたジョーイは大きな瞳を更に見開いた。
33番道路は常に雨が降っている。
傘を差す余裕もなく、走り抜けたミナトと世羅は、頭から爪先までぐっしょりと濡れていた。
洞窟を出るまでミナトの腕にいたポケモンは、今は世羅が抱えている。


「あなた達、ずぶ濡れじゃない……早く乾かしなさい!」

「それよりこの子を先にお願いします」


体を冷やさないように世羅の上着を被せられていたからか。
ジョーイはポケモンには気が付いていなかったようだ。
ミナトが世羅の上着を剥ぎ取ると、ジョーイは血相を変えて助手のラッキーを呼んだ。
ぎゅっと世羅の上着を絞ると、たっぷりと吸った雨水が滴り落ちた。


「いったいどうしたの!?」

「繋がりの洞窟でズバットに襲われていました。応急処置として傷薬はかけたんですが」

「分かったわ。とりあえずあなた達は体を温めてきなさい。この子の処置は任せて!」


ジョーイはそう言うと、ミナトに部屋の鍵を預け、世羅からポケモンを預かる。
担架にポケモンを乗せたジョーイは、ラッキーと共に処置室へと消えていった。
ジョーイから押しつけるように渡された鍵には4と書かれたテープが貼ってあった。
どうやら四号室の部屋を与えられたらしい。
一応部屋に入る前に、服を絞って粗方の水滴を拭っておく。
荷物を抱えなおしたミナトと世羅は、与えられた部屋へと足を踏み入れた。


『ほらマスターも世羅も、早く着替えて』

「ほい、こっちタオルやで」


部屋へと入った瞬間、ボールに戻していた吏焔と天凛が飛び出してきた。
バスルームへと引っ込んだ天凛は大きなバスタオルを手に持つと、ミナトと世羅へと渡す。
流れでミナトの頭をわしわしと拭いていれば、ミナトに冷たく手を払われた。
払われた手をきょとんと見ていた天凛に、ミナトは乱れた髪の毛を庇うようにタオルを頭から被った。


「……自分で出来るから」

「あ、ああそうか、すまんなあ」


ぽりぽりと痒くもない頬を掻いた天凛を横目に、ミナトは鞄からあまり濡れていない着替えを引っ張り出す。
大きいタオルを被った、幽霊のような姿でバスルームへと引っ込んでいった。


「わい、なんか嫌なことしたんかな……」

『お節介すぎるんじゃないの』

「は、はっきり言うなあ吏焔」


バスルームの方からは、暫くするとドライヤーの音が響いていた。
ミナトが髪を乾かしているのだろう。
吏焔と天凛から少し離れたところでは、世羅が見た目に似合わず、男らしく髪を拭っていた。
服を脱いだ世羅の体は、筋肉質で均整が見事に取れていた。
濡れた服や靴は、原型の吏焔の炎によって乾かされている。


「ありがとう、吏焔」

『どーいたしまして』


黒いTシャツ一枚だけを身に纏った世羅が礼を言えば、吏焔は素っ気なく返事を返した。
ドライヤーの音が止んで、ミナトがバスルームから部屋へと帰ってきた。
服を持っていないことから、濡れた服は洗濯に出したのだろう。
片手にドライヤーを持ったミナトは、ぱちりと一つ瞬きをした。


「何の音かと思ったら、吏焔の炎だったんだ」

「ああ、乾かしてもらってる」

「そう……あ、これ」


片手に持ったドライヤーを世羅へ渡せば、世羅はすぐに意味が分かったようだ。
コンセントにドライヤーのプラグを差し込むと、すぐに髪を乾かし始めた。
濡れてごわついた髪が、熱風を当てられると自然と艶を取り戻していく。
粗方乾かし終わった世羅は、手櫛で髪の毛を整えるとドライヤーを片づける。
吏焔も炎を出すのを止め、一つ欠伸をこぼした。
世羅の服も、ミナトの靴もすっかり乾いていた。


『あいつ大丈夫かな』

「大丈夫やろ、ジョーイさんも任せてって言うてたしなあ」


にかっと笑みを浮かべた天凛から、ミナトと世羅はそっと目を逸らす。
乾ききった靴に足を通すと、ミナトは部屋のドアに手をかけた。


「ミナト、どこ行くん?」

「町の中見てくる」

「オレも」

『あ、ちょっと』


止める間もなく、ミナトはあっという間に部屋を出て行ってしまった。
その小さな背を追うように、上着を掴んだ世羅も続く。
二人は荷物も、部屋の鍵も置いていってしまった。
どうするべきか悩んでいる間に、二人の背中はとうとう見えなくなってしまった。


「着いてこなくてもよかったのに」

「確かめたかったんだ……ミナトもそうだろう?」


ポケモンセンターの自動ドアを潜れば、ミナトがぽつりとそう呟いた。
上着を羽織った世羅の言葉には応えず、町の中を見渡す。
繋がりの洞窟を越えた先にある町。
薄い茶色の屋根が目立つ、静かな、のんびりとした町、ヒワダタウン。
その町にはヤドンが至る所でのんびりと横たわり、町の人々は穏やかに暮らしている。
とても、新聞で報道されたようには見えなかった。


「……どういうこと?」


ぽつりと呟いた言葉は、空に溶けて消えていった。


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