花曇りの空 | ナノ

12


力尽きたポッポをボールへ戻したハヤトは、ポッポに労るように声をかけた。
そのボールを扱う手も撫でるように優しく、ハヤトのポッポへの思いが一目で分かる。
そっとボールから顔をあげたハヤトの瞳は、次の瞬間にはまた好戦的な色を灯していた。


「やるな、ミナト」

「……どうも」


鋭く真っ直ぐ見据えてくるハヤトの視線に、ミナトはそっと目を逸らす。
きまり悪く目を伏せたミナトに、ハヤトは照れていると感じたのか。
ふ、と笑みを一つこぼすと最後のボールに手をかけた。


「次はこいつだ!頼んだぞ、ピジョン!」


ハヤトが投げたボールから飛び出たポケモンは、高らかに鳴き声をあげて一度羽ばたいた。
ハヤトの二体目のポケモンは、とりポケモンのピジョン。
先ほどのポッポの進化した姿だった。
ポッポよりも逞しく、スタミナもあるだろう。
少し思考を巡らせたミナトは、審判へと視線を移した。


「……ポケモンの交代をしても?」

「もちろん、構いませんよ
次からは、ルールでそう示されていれば聞かなくても交代をして構いませんからね」


窺うように尋ねれば、審判は快く頷いた。
続けられた言葉に、これは尋ねなくてもいいことなのだと察することが出来る。
ロコンをボールへ戻し、少し迷ったがミナトは小さくお疲れ様、と呟いた。
それを難なく聞き留めたロコンは、満足そうに一度鼻を鳴らした。
ロコンのその嬉しそうな反応に、ミナトは酷く戸惑う。
しかし、すぐにその感情を振り払うと、次にミニリュウのボールを手に取った。
それを軽く放ると、ミニリュウはにっと笑みを浮かべた。


『やっとわいの出番やなー!』


やる気十分にそう声を上げたミニリュウがピジョンを見上げる。
ばちりと火花が散る錯覚が見えた。


「それでは、ピジョン対ミニリュウ、始め!」


二匹がフィールドに姿を表すと、再度審判の開始の合図が響いた。
ジムの天井付近まで急上昇したピジョンは、静かに獲物を狙っている。
先に仕掛けたのは、またもやハヤトだった。


「ピジョン、“でんこうせっか”だ!」


ピジョンの羽が空を切る、鋭い音がフィールド上に響き渡った。
ポッポよりも素早く、それ故に重い一撃がミニリュウ向けて降ってくる。
ミニリュウは特に慌てることもなく、一度ミナトを振り返った。


「“りゅうのいかり”」


真っ直ぐに突っ込んでくるピジョンへ、ミニリュウは次々と衝撃波を放っていく。
ミニリュウの攻撃が被弾したピジョンは、うめき声をあげる。
しかしその動きが止まることはない。


「いいぞピジョン!そのまま“つばさでうつ”だ!」


放たれた衝撃波ごとねじ伏せるように、ピジョンの翼は振り抜かれた。
軽いミニリュウの体は勢いに負け、そのまま後方へ飛ばされていく。
ミニリュウは一度フォールドを跳ねて、動きを止めた。


「ミニリュウ……!」

『、大丈夫や!前向き!来るで!!』


ミナトの声に素早く反応したミニリュウは叱咤するように声をあげる。
激しく飛ばされたように見えたが、ミニリュウは即座に体を起こした。
ミナトがミニリュウの言葉に促され前を向く。
ピジョンは既に次の攻撃に移ろうとしていた。


「もう一度“つばさでうつ”!」

「“しんそく”!」


既にミニリュウへ向けて下降していたピジョンに、ミナトはほとんど反射のような指示を飛ばした。
ミナトの指示に、ミニリュウは尾を振り上げる。
ミニリュウはピジョンよりも遙かに早い動きで、その胴体へ尾を打ち付けた。


「ピジョン!大丈夫か!?」


予期しない攻撃だったためか、ピジョンの体が硬直した。
しかしハヤトの声が聞こえると大声で鳴き声をあげる。
闘志は消えていないようだ。


『今のはええ指示やったで、ミナト』

「……ありがとう」


ミニリュウは小さくミナトを振り返ると、にっと口角をあげた。
それに小さく返したミナトは、視線をフィールドへ戻す。
ピジョンは既に落ち着きを取り戻して、静かに空を飛んでいる。


「ピジョン、“すなかけ”だ!」

「ミニリュウ、かわして」


ピジョンはその指示に従い、かぎ爪のような鋭い両足でフィールド上の砂を巻き上げた。
ミニリュウはその砂を体をくねらせて素早くかわす。
しかし、そのミニリュウの前にピジョンが回り込んでいた。


「“かぜおこし”だ!」

『うお!?』


ピジョンが起こした風によって、巻き上げられた砂がミニリュウへ降りかかる。
素早く目を瞑ったミニリュウだったが、それは少しだけ遅かったようだ。
ミニリュウは仕切に頭を振ったり、瞬きを繰り返している。


「ミニリュウ……!」

「ピジョン、“つばさでうつ”だ!」

「ミニリュウ、後ろから来るよ!“りゅうのいかり”!」


一時的にミニリュウの目が潰されてしまった。
それに焦ったミナトは叫ぶように声をあげる。
ミニリュウも霞む視界で精一杯攻撃をするが、それはピジョンに軽やかにかわされた。


「ピジョン、もう一度“すなかけ”だ!」


上空で旋回するようにミニリュウを観察していたピジョンは、ハヤトの指示に急下降を始める。
ミナトは狼狽えたように、意味もなくフィールドを見渡す。
そんなミナトの雰囲気を肌で感じ取ったのか。
ミニリュウはにっと笑みを浮かべた。


『落ち着きミナト、大丈夫や、一回深呼吸して、もう一回考え』


落ち着いたミニリュウの声に、ミナトの気持ちがすっと落ち着いた。
言われた通りに深く息を吸い込み、吐き出す。
再度見たフィールドは、先ほどよりもクリアに見えた。


「ミニリュウ、“たつまき”!出来るだけ大きく!」

『任せとき!』


フィールドいっぱいに広がった竜巻は砂ごと接近していたピジョンを飲み込む。
巻き上げられた砂が体を叩きつけ、逃れられない激しい風の渦に、ピジョンはうめき声をあげた。


「ミニリュウ、竜巻見える……!?」

『おん、ばっちりや!』

「じゃあ、そこに向かって“りゅうのいかり”!」


竜巻にとらわれたピジョンはその衝撃波をかわすことも出来ず。
命中率は低いものの、何度も何度も放たれた攻撃は確実にピジョンの体力を奪っていった。
やがて竜巻が収まると、ピジョンは真っ直ぐにフィールドへ落下していく。
目を回し、気絶したピジョンに、審判は素早く声をあげた。


「ピジョン戦闘不能!よって勝者、チャレンジャー・ミナト!!」


審判の声がジムの中に響き渡り、ボールの中のロコンも観覧席も嬉しそうに声をあげた。
フィールドにいるミニリュウも満面の笑みを浮かべている。
そんな様子を、ミナトは呆けたように、ただ見つめていた。


「なんやミナトー!“たつまき”あんな風に使うなんて、いつのまに勉強したんや?」

「粉ごと相手に吹き飛ばすのも有効って、キミが言ったから」

「お、おう、覚えてたんか!」


擬人化してミナトの傍までやってきたミニリュウは、ばしばしとミナトの背を叩く。
問われた言葉に、特に考えもせずにマダツボミの塔でミニリュウに言われたことを繰り返す。
するとミニリュウは照れたような、それでいて嬉しそうな表情を浮かべた。


「やられたよミナト……ほら、これがジムバッジだ。持っていけよ!」


悔しそうに声をあげたハヤトだったが、次の瞬間には笑みを浮かべていた。
未だにぼうっとするミナトへ、バッジを手渡す。
それほど大きくないそれが、ずしりと重く感じた。
一度それを握り締め、一つ息を吐く。
高揚する気持ちを、無理矢理抑え込んだ。


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