「さー準備は良い?!」 「よっしゃァ!」 「一角が戸開けたら…ちょっと修兵、アンタ人の話聞きなさいっての」 「乱菊さん、今ソイツ傷心中」 「あら、一護」 「?にフラれて落ち込んでるから──って刀を抜くなッ!」 「うるっせェぞ一護テメェも敵だ!」 「だーッ!クソしつけーな!」 「騒がしいなぁ…もう来るんじゃないの一角」 「確かにそろそろ時間なんだけ…っ来た!」 「ホラ修兵静かにしろって!」 「くそ…覚えてろよ一護」 「アンタたちっ!いい?開くわよ…せーの、」 ──おかえり、?! 6 Home sweet home. ─(何、この手) どいつもこいつも最低な野郎だ。 尸魂界一可愛い俺の大切な?を。 俺の許可なく連れ出して甘味処で餌付けしようとしたり、昼過ぎに執務室へ忍び込んでぽかぽか眠りこけてるアイツにあんなことやこんなことしようとしたり、酒を飲ませて脱がせようとしたり、私の妻にならぬかとか言ってみたりオジサン頑張っちゃうよ〜?とか言ってみたりどうしてかな君には私の斬魄刀の能力は効かないみたいだとか、言ってみたり。 だがまあ、そこは俺、と言うか何と言うか? あんみつ頬張ってニコニコしてる死ぬほど可愛い?を、満足げに眺めてた恋次はたい焼き口に入れたまま意識飛ばしてやったし、真っ赤な顔で「書類を渡しに来ただけだ」とブツブツ取って付けたような言い訳する日番谷隊長には早急に帰ってもらって未遂で済ませたし、まぁ女同士だしと見守ってたら、ザルの?でも酒豪には敵わなかったかそれとも一服盛られたか、とろんと目を潤ませた?に様々な悩殺ポーズをとらせて、バシバシ写真をとって狸の皮算用始めた乱菊さんは身を挺して阻止したし、他隊の上司なんつーやりづらい相手からは、ひたすら逃げる。面倒臭がる?を引きずってでも、逃げる。 そんな涙ぐましい努力で、これまで可愛い可愛い?の貞操を死守してきたのに。 「…悪い」 定時の半刻後にはじまった、おかえりパーティーと題した?の慰労会。 色々あって?のお迎え係になった斑目さんは戸を開けるなり、声をそろえようと口を開いた俺たちより早く、人指し指を口元にあてて一言、そう言った。 「定時まで時間潰してろっつーからよ…」 小さい声で申し訳なさそうにそう呟いた斑目さんが背中を揺らしながらこっちに向けると、その背には── 「?…」 主賓のはずの?が長いまつげを伏せて静かに寝息をたてていた。 「待ってる間に寝ちまった」 よっ、とか言いながら?を背負い直すしぐさがちょっとぎこちなくて、よく見れば斑目さんの死覇装の袖は握られた?の細い指にしっかり絡めとられていた。 「こりゃあ…」 「起こせないわねぇー」 貴重な寝顔を見ておこうと寄ってきたヤツはみんな一様に「寝かせてやれ」と眉を下げて戻っていく。 そりゃこんな眠り姫みたいな寝顔見ちまったら、なあ。 「にしても、よくおんぶなんてさせてもらえましたね」 座敷に上がって背中からそっと?を下ろし、膝の上に抱きかかえたところで息を吐いた斑目さんに恋次が一言。 そう、問題はそこだ。 ?と斑目さんが仲良いのは知ってる。席官になったばかりの頃から斑目さんの編隊にいたんだ、下手したら俺より付き合い長いのかもしれない。 しかし、だ。 知っての通り?はドが何個も付くくらいのSだ。 俺だってフツーに抱き締めたりキスしたりならさせてもらえる(時もある)が、横抱きとかおんぶとか、そういう女の子扱い全開なスキンシップは絶対ダメ。 それは多分ほかの男に対しても同じはずなのに、何で── 「いや、抱っこっつーから最初はそうしてやってたんだけどよ」 「だっ──…?!」 ──っこだと?! 抱っこ、抱っこ──だ、 抱っこだと?! イヤ待て落ち着け静まれ俺の心臓。今のは俺の幻聴かもしくは斑目さんのキチガイか?の──くそ寝顔可愛すぎんだよ!とにかく過ち…じゃねぇ何かの間違いであって 「はーやっぱ一角さんにはなついてんスね!」 「知るか。まぁ…上官の俺が面倒見てやんねェと、な」 「危なっかしいからね?は」 ドSの?が俺以外の誰かに「抱っこ、して…?」だなんて、あ、あああ甘えるとかンなの絶対に 「でも、何がどうなっておんぶになったんだよ?」 「手ェ疲れただけだって。どんだけ待たされたと思ってんだ」 「まあまあ。良かったじゃない、仲直りできて」 「何アンタたち喧嘩してたの?」 あり得ない。断じて、あり得ない。 「…喧嘩っつーか」 「行き過ぎた愛だよね、一角」 「ウルセーぞ弓親」 あり、得ない。 「修兵」 「…」 「ンな落ち込むなよ」 一角さんと?、それを囲むその他ギャラリーに背を向け一人項垂れる俺の肩をポンと叩いて、声をかけてくる一護。クソ、敵のくせになんて良いヤツなんだ。 「潔く諦めちまえ。?は俺が可愛がってやるから、な?」 「…そうだな。わかった、お前に?の恋人の座は譲る── とか、言うと思ったかぁーッ!!」 盛大にブチ切れた俺の怒号は、遠く離れた二番隊舎で居眠りしていた副官の目も覚めさせた、と後になって聞いた。 それと、その瞬間とっさに?の耳を塞いで抱き込んだ斑目さんの瞬発力は大したもんだと思う。 だがそんなことで俺の魂の叫びはシャットアウトできなかったらしい。 「…っ、んー…」 あまりの騒々しさに起きてしまったらしい?の、ゴソゴソ斑目さんの腕の中に潜り込みながら発したその小さい声。 みんなを一瞬で静かにさせてしまうあたり、俺の叫びなんかよりよっぽど威力があるみたいだ。 そしてさらに威力があるのは、 「…まだらめ、っ…さむい」 寝起きの?は、壮絶に可愛いってこと。 「あー?、ちょっと起きろ」 「んー…や、」 「みんなお前待ってたんだって」 寒がる?の肩をさすりながら斑目さんがなだめてやれば、?はイヤだとでも言うように顔を背けてギュッとしがみついた。 斑目さんの、胸元に。 「ホラ、?」 「んー…」 「起きろって」 寝起きの?を知らない、俺と斑目さん以外のヤツは、ガキみたいに駄々をこねる?をそりゃもう驚愕しつつ固唾を飲んで見守ってる。 ?は酒に酔ったときなんかも似た感じになる。なんて言うか、普段のSっ気がサラーッと抜けるんだ。 もちろんそれもすげぇ可愛い。でもやっぱり?はドSじゃないと、とか思ってしまうあたりとことん?に惚れてしまってるらしい俺は、どう足掻いても?から離れるなんてことはできないみたいだ。 もう、苦笑いするしかない。 「修、…」 そのとき、寝ぼけたままの、呻くような甘い声が俺の名前を呟いた。 「…??」 「起きる、から…こっち、」 来て、と手を伸ばしながらとろけるように笑った?に、俺の心臓は一気に決壊寸前になる。 いつもは呼んでくれない名前も、素直に甘えてくる手も。 ?の全部が愛しすぎて、俺は迷わずその手に指を絡めてしっかり抱き寄せた。 「起きんのか?」 「ん、」 下ろされた床が冷たいのか、?は俺の死覇装を掴んで自分から膝に乗ってきた。 「じゃ、目つぶって」 そういや、?が現世行ってたからコレするのも久しぶりだ。 ドSだけど寝ぼけると甘えたがりになる?に、目覚めて最初にしてやること。 「っ、ん…」 「…おはよ、?」 唇に、おはようのキス。 見せつけてやりたくて、いつもより長めに塞いで味わった柔らかい唇を離すと、ゆっくり目を開いて満足そうに笑う?。 「おはよう修兵」 ああ、もう。 もう何だっていい、こんな顔見られるなら何でもしてや── 「離して」 ──…ん? 何か聴こえた気がする。それも、俺の大好物な?の唇から。 恐る恐る、腕の中の彼女を覗き込んでみれば。 「離してってば、変態」 いつまで触ってんの馬鹿、と付け足して、その細い腰を抱いていた俺の腕をギュッとつねる、?。 ──…だよな。 あっという間に離れてくいつも通りの?を、やっぱりいつも通りに追いかけた。 |