ぶらり訪れた久しぶりの尸魂界で、なぜか人探しを頼まれる、俺。 どうせ現世は夏休みで、することなくて暇だったから遊びに来たワケで、それ自体はまったく問題ない。 多分どっかの隊長格のとこにでも逃げ込んでるだろうってことも分かってるらしい。それなら俺も顔見知りばっかだし、地理にうとくたってそいつらの霊圧を辿れば隊舎には行き着ける。まったく問題はない。 その??ってヤツを、知らないっつーことを除けばだが。 4 I know all of us like you, and you don't know I love you. ─(どえす、って何?) 「こんちはーッス」 「…珍しいな、一護」 九番隊の前で「二手に分かれるぞ」って言ったときの修兵は結構凛々しかったのに、お前はあっちだと指差されたのは剣八とかマユリとか、見事に厄介な方角。 ふざけんなテメェ、振り返ったときには逃げてく修兵の背中がもう小さくて、そこでやっと探し人の名前しか知らないことに気付いた。 そして、フルネーム知ってりゃ何とかなるかっつー考えがいかに甘っちょろいもんだったのか、俺は身をもって知った。 「疲れてんな。何かあったのか?」 「イヤ…なんつーか」 「死神って本当に仕事してんのかなー…って」 まず訪れた十番隊。冬獅郎はいつものように乱菊さんが逃げたせいで機嫌が悪くて、うかつに近づけない。 十一番隊は勝負ふっかけられるからこっそり行ったのに、今日に限って隊主室にいた剣八に追いかけ回された。逃げながら、スゲェ美人だっつうのを弓親に聞いた。海燕と仲良いからそこじゃねぇかってのは一角が言ってた。最終的になぜかやちるも加わり四人に追われまくって、逃げ込んだのは技術開発局。 仕方ないから、ここでまともに会話できる唯一の人のとこに来たわけだ。 「人探し?」 「そ。??ってヒト」 「…はッ、」 超美人で(弓親談)すげぇ強くて(一角談)ワガママ言い放題(冬獅郎談)なドSお姫様(修兵談)──その名前を口にした途端、阿近さんは楽しそうにカラカラ笑い出した。 「運が良いなお前」 そしてどこへともなく声を掛ける。 「出てきてやれよ」 その瞬間背中に感じた甘い霊圧。振り返って、俺は ──なんて 言ったらいいのか すらり、伸びるしなやかな手足。死覇装の上からでも判る、線の細さ。 右肩にまとった紗(うすぎぬ)は、胸まで届く黒髪と重なってゆるりと流れて。 白い肌、色付いた唇、長い睫毛。 そして。 「──…ッ、」 重たげに、でも真っ直ぐに見つめてくる瞳は、片目だけが。 透き通った空の色だった。 「こんにちは」 ──墜ちたと思った。 「私を探してたの?」 「…あ、いや、俺じゃなくて、」 「修兵か」 「ハ、イ」 こてり、と首を傾げながら不思議そうに覗き込んでくるもんだから、座ってた俺は思わず仰け反った。 だってすげぇ、キレイ、だから。 「?、あんまり一護虐めんな」 「イチゴ?」 「…ったく。悪ィな一護、コイツ阿呆だから」 いつもは腹立つその間違いも、その人が口にすれば心臓を大きく跳ねさせてしまう。 もう何でも良いですから、そう言おうとした俺の文字通り目と鼻の先に、突然彼女の白い手がグイッと突き出された。 「どう書くの?いちご、って」 楽しそうなその顔を見れば、自然と俺の手も伸びる。座ってたイスごと、彼女のほうに近寄って差し出された白い手を下から包み、その掌に指をすべらせた。 「一、護?」 「ああ」 きゅ、と軽く手を握ったら、自分の掌から俺に視線を移して、?さんは嬉しそうに笑った。 「よろしくね、一護」 ──もう、ムリ。 「阿近サン」 「…わかったよ、」 硬い声で呼ぶと、察しの良いその人は腰を上げてさっさと部屋を出ていった。 「?さん」 掴んでた手にちょっと力を入れて引き寄せ、ぐっと近付く腰に右手を回してみる。 「嫌がんねぇの?」 「…」 「ドSって聞いたんだけど」 されるがままになってる?さんを両腕で抱きすくめ、下から見上げた彼女の顔は── 「赤くなってる…」 「…」 内心ちょっとびっくりして、同時にひとつ期待に満ちた考えがひらめく。それでニヤリと口の端を持ち上げて見せたら、?さんは怒ったように顔を背けた。 「…なぁ」 「なに」 「もしかしてさ、俺と同じ?」 「…」 ?さんは黙ってるけど潤んだ瞳がちゃんと、答えてる。 俺の足の間に立ってた?さんを片膝に座らせて。 かなりの天の邪鬼らしい彼女が、赤くなった目を伏せながらも俺の首に触れてきたから。 その細い顎に、甘く噛み付いた。 「すっげ嬉し…」 噛んだトコロに舌を這わせ、最後に唇を舐め上げたらおかしいくらい?さんの体が震えた。 「…馬鹿じゃないの、っ」 照れ隠しの毒も、今の俺には睦言に聴こえる。 「同じだろ、俺たち」 一目惚れ同士、な。 |