至上主義 | ナノ





 昼休みもあと数分で終わり、という時間に、死神通信の"関わりたくない隊"特集で堂々の第二位に選ばれた十一番隊に来ているのには、訳がある。
 左腕に抱えた書類の束は、隊長に一応の外出許可をもらうためのただのカモフラージュ。もちろん、そんなことのためにわざわざ副隊長の俺が隣でもない隊に出向いたりしない。

 事の発端は、一昨日くらいからまことしやかに流れていたある噂だった。


 ──??が現世任務から戻ったらしい。


 その噂を聞きつけ、同じように興奮気味な阿散井や吉良を連れて昼飯を食いに行った共同食堂。
 そこで久しぶりに見た彼女が、今日は長期任務後の書類整理で執務室にこもりっぱなし、と聞けば、たとえ東仙隊長に咎められようと会いに行かない訳はない。



 ?は俺の、姫君なんだから。




 Who is our be loved,
 the sweetest princess ?
 ─(君さ、そんなにヒマなの?)



 今日ほどこのクソ恐ろしい隊が愛しく思えたことはない。

 群がる隊士どもをかき分けかき分けようやくたどり着いた十一番隊執務室。挨拶もそこそこに扉を開け、スルリと体を滑り込ませてピシャリ、ほかの奴らをシャットアウト。ホントは阿散井と吉良も追い払いたいところなんだが、さっき食堂に?がいることを教えてくれたし仕方ない。


 広い室内を見渡せば、いつもの数割り増しでギャアギャア騒ぐムサい男共の中にぽっかり、穴が開いたように人のいない場所があった。
 穴の中心には一台の机。木刀を抱えた斑目さんがその上でどーんとあぐらをかき、机に向き合うように寄せられた細いフレームの椅子には綾瀬川がゆったり腰かけ、爪の手入れに勤しんでいた。

 そして、その二人に守られるようにして机に向かうのは──



「?!」



 愛しい愛しいその名を呼べば、とろんと気だるげに持ち上げられる視線。
 抜けるような真っ白い肌に影を落とす長い睫毛と、その辺の女の何倍も光を含んで潤む黒い瞳。
 それが俺を捉えた途端、驚きで薄く開かれた唇は、食べたくなるほど綺麗な桃色に色づいていて。きっとその可愛い唇はにっこり笑みを形作って、俺に「ただいま」を言うんだ。




「げ、卑猥…」 ──まぁ、最後の部分は俺の妄想だけど。



「…?ちゃん、ただいまは?」
「ただいまー、変態」

 面倒臭いと顔中に書いてあるけど、これくらいじゃ俺はへこたれない。お前のそれが照れ隠しだって知ってんだからな。

「君さ、ヒマなの?」
「暇なわけねぇだろ、お前眺めんので手ェ一杯なの」
「ふざけないで」



 そう。

 俺の可愛い姫君は、残念なくらいドSで毒舌で男よりも男らしい、絶世の美女です。



「ヒマなら報告書手伝ってよ」
「んなもん後だ、後!俺の部屋来い。な?」
「ハァ?昼間っから盛らないでくれる?」

 





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