至上主義 | ナノ









 それから二日後に、?は意識を取り戻した。
 六日後には普通に生活できるようになった。あの大怪我が、嘘だったかのように。

 ?の回復ぶりには誰もが驚かされたはずだ。


 そうじゃないのを知っていたのは、卯ノ花隊長と十一番隊の一部、そして俺だけだった。







 ?は、腹の怪我の治療を頑なに拒んだ。







 目を覚ました朝。


 あの日要請に応じて駆け付けた斑目さんから二人の部下の死を聞かされた?は、病室をめちゃめちゃにして飛び出した。

 半日経って斑目さんと綾瀬川に連れ戻されてからは、脱走こそしないものの自分の身体に一切触れさせようとしなくなった。
 苦肉の策で技局から人を呼んでも、抵抗して傷を見せることさえ許さない。


 卯ノ花隊長の判断で、下手に暴れさせるよりは治療できなくとも病室で安静にするのが適当だということになった。






 それに反対したのは俺だけだった。






 監視のついた部屋でベッドにつながれることが──“安静”?






 どうしても理解できなかった。


 ?はすぐ特別監視棟に入れられた。






 それから毎日、俺は?に会いに行った。

 何の目的もなかった。俺が顔をだしても、?は一言も喋らず目を合わせてくれようともしない。



 でもなぜかそうしたほうが良いと思った。










 それから十日後、?は姿を消した。










「砕蜂隊長が警邏隊から数人呼んでくれたって!霊圧の捕捉もいま技局がやってくれてる」
「よしッ、じゃ弓親お前も隊士連れて探し行けッ!」
「分かった」
「クソッ…ンで何の跡も残ってねぇんだよっ!」
「隠密機動から声かかってたくらいのヤツですよ、オレたちに探せるはずが…──
「探すんだよ!テメェらもさっさと行け!」







 ──怒鳴り声が。





 外まで聴こえて、俺は今まさに開けようとしていた扉から手を離した。
 瞬間、割れそうな勢いで扉が開き、出てきたヤツらと視線が合う。


「檜佐木、副隊長…」


 俺の顔を見るなり気まずそうにそう言ったものだから、思わず笑ってしまった。





 名前も知らない他隊の部下が、?と俺の間柄を知っている。





 でも俺だって、本当はコイツらと何も変わらない。
 恋人面しながら今もまだ?のことが分からない。でも一番分からないのは、それでも隣にいたいと思う俺の決意を、?は知っていたのか、だった。



 知ってたとしたら、それなのに姿を消した訳を聞きたい。

 知らなかったのなら、







 ──いくらでも聞かせてやる。



 お前が隣にいてくれるなら、俺は何度だってお前を見つけてやる。






「待ってろ、?」






 遠くで、空が光った。










 





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