あの日と同じだった。 ただあの日は事が起きてから随分経った後だったし、そういうときばかりやたら隠すのがうまい?を、見抜けるわけがなかったのだ。 見抜けなかった故の“突然”は、感じたことのない恐怖になった。 何かが欠ける恐怖。何かが、──失われる恐怖。 何の異変も、予兆もなく。 8 Without you all,I'm going to be incomplete. 「──…十一番隊に応援要請、十一番隊に応援要請。同隊七席、以下三名負傷。至急現地へ急行されたし、…──」 それはあまりにも突然で、 「檜佐木さんッ…!」 血相変えた綾瀬川が執務室に飛び込んできたその瞬間、ようやく、俺は緊急警報の内容を理解した。 だってまさか、どこかの隊士が焦ったように告げる名前が、俺の、誰より大切な女の名と同じだなんて。 「──…くそ、ッ!」 ──よく覚えてる。 綾瀬川に事情を聞きながら十一番隊に向かった。心臓が割れそうに早鐘を打って、全身が痺れたように震えて、それでも足だけは必死に動かして。 気を利かせた十一番隊のヤツが俺のために地獄蝶をくすねてくれてたらしく、綾瀬川が穿界門を立ち上げたのを突き破る勢いで現世へ降りた。 酷い臭いだった。 そこらじゅうに飛び散った紅い塊。 禍々しいほど元の形が見てとれるのもあれば、溶けかかって白い臭気を漂わせているものもあった。 生き物だったはずのそれら。 目眩がした。 そして?は。 「──…、」 地面に突き立てた己の刀に倒れかかったまま、光を失った瞳で血の海を見つめていた。 「……?、」 ?の役目は、駐在任務引き継ぎの確認だった。 同行したのは坂上十席とあと二人。任期を終えた隊士の代わりに坂上が現世に残り、?はそれを見届けるだけで良かった。 同時間帯に虚出現の予定はなく、だからこそ平隊員を二人、連れて行かせた。 二人は、現世に降りるのは初めてだった。 それがどうしてこんなことに。 赤く染まった地面を前に動けないでいる俺に、綾瀬川が言った。 「相手が、毒持ちだったらしい…しかも…メノスだったって」 毒性を持った虚の討伐は、上位席官でも相当に気を遣う。毒を食らって長期戦にでもなれば、まず勝ち目などないからだ。 それが大虚なら、 「…──?、?…ッ!」 七席の手に負えるものでは、到底ないのに。 斬魄刀を強く握り締めたままの?の指を、一本ずつ剥がすように解く。 支えを失った身体はずしゃりと倒れて、俺の胸に収まった。 ──こんな、白い腕で。こんな細い体で。 ?は一人で大虚を倒し、部下を守ろうと戦ったのか。 「頼むから、っ…?、」 呼吸は、ある。腹からのひどい出血も、駆け付けた四番隊のおかげで止まりつつある。 ならどうして、?は目を覚まさないんだろう。 ▼ あの日=隠してたケガが一角にバレたときのこと。 ?ちゃんは痛みや弱み、負の感情を抱え込んで閉じこもるタイプな気がします。 |