至上主義 | ナノ







 ?が七席になってから、俺は毎日のように?に会いに行った。

 通い始めた頃はほとんど口もきいてくれず、それこそ不思議そうな視線を感じるくらいだったが、毎日声をかけてるうちにだんだん警戒心を解いてくれたようで、言葉を交わす機会も増した。



 でもそこはやっぱり?、というか何というか。



 ?が笑ってくれてたのは最初のうちだけで、最近じゃもう呆れた顔をされるだけになりつつあった。

 もちろんそんなことくらいで俺はめげない。

 ?が誰よりなついてる斑目さんなんて、打ち解けすぎて逆に、稽古中ずっと入隊当初と変わらない勢いで罵倒しあってるくらいなんだから。
 ?が斑目さん以上に俺に心を開いてくれるまでは、誰に何と言われようと俺は?を一番近くで見守ると決めたんだ。



 ──そういうわけで。




「?!」


 今日も今日とて十一番隊の門扉を叩く。
 今ならきっと午前の勤務を終えて、その疲れでもって斑目さんに八つ当たりかましてる頃だ。
 しかも、本当なら今日俺は書類整理に追われているはずだったから予告なしの訪問。書類は?に会いたい一心で鬼のように片付けてやった。驚け喜べ?!と意気込んでスパーンと扉を弾き飛ばしたのもつかの間、




「…残念、彼女今朝から現世」




 静かな室内には綾瀬川が一人。


 こんな調子で、俺の根性もとい?への愛はここ最近十一番隊の連中のせいで空回りばかりだ。

 昼飯に誘えばギャラリーが付いてくるし、休憩を狙えば般若みたいなツラした斑目さんと綾瀬川が執務室で待ち構えてるし、こうなりゃ非番だと思い付いても、休みを教えたら鍛錬メニューを斑目さんと同じにしてやると脅されたらしい?は頑なに口を開こうとしない。
 現世任務ってのも本当かどうか怪しいもんだ。



「いつ戻る?」

 男ばかりの中で必然的に事務仕事を任されるようになった?がいないからか、めずらしく書類に筆を滑らせる綾瀬川の机に、腕を突き立て問いかける。机がガタンと揺れて、綾瀬川の涼しげな顔があからさまにしかめられた。悪いな、わざとだ。



「三日はかかるだろうね。ま、帰ってきたって檜佐木さんには教えないけど」

「…良い根性してんな、ホント」



 ?本人になら惚れた弱みに漬け込まれようが大歓迎なのに、実際に絡んでくるのは斑目さんと綾瀬川を筆頭とする、十一番隊のヤツら。
 さっきも言ったがコイツらは俺の邪魔ばかりするくせに、?がいようがいまいが何だかんだこうしていちゃもんつけてくる。この前も斑目さんに「ンな卑猥なツラさげて?の前に現れるんじゃねェ」とか何とか追いかけ回されたばかりだった。


 ──良かった、今日斑目さんいなくて。へたに喧嘩売られる前に帰ろう。



「じゃ…まァ、また来──

「あ、」




「…は?」


 ?がいないなら仕方ない、早急に暇を乞うつもりだったのに途中でか細い声がそれを遮った。
 反射的に綾瀬川を見ると何やら不機嫌そうな、ばつの悪そうな顔をしている。待てじゃあ今の声はまさか、




「綾瀬川、今お前、──
「只今戻りました」




 ──なわけあってたまるか。

 戸口を振り帰ると、見たことのない隊士が姿勢を正して任務結果を報告しようというところだった。
 そいつの前にはいつにも増して可愛い俺の?。



「?!」
「…チ、」



 さっきの可愛い声はお前だったか!

 そうだよな、こんなあからさまに舌打ちしてくる綾瀬川なわけがない。コイツ、三日だなんて大ボラ吹きやがって。


「おかえり」
「…うん」

「ただいま戻りました、檜佐木副隊長」


 他隊の部下の手前、頭を撫でてやりたいのをこらえて優しく声をかけた。
 ?は照れくさそうに目を伏せて、それでもちゃんと返事をしてくれる。後ろの男にまで言ったつもりはなかったが、?が可愛いので気にしない。


「単独任務じゃなかったのか」
「…ふたり」
「あっ、失礼しました、十一番隊十席の坂上です。今月から?七席に同行させて頂いてます」
「へぇ…」



 ──二人、ねェ。



 ふんふん頷く俺を、怪訝な目で見てくる?。

 別に嫉妬してるわけじゃない。

 ?の横にこの男が立ってることが、さも当たり前のような空気を二人から感じるからちょっと気になっただけだ。…──嫉妬か。



「…ま、怪我なくて良かったわ。お疲れ」


 大人げなく妬いたりする前に退散しよう。


 そう思って、やっぱり堪えきれず?の頭をひとつ撫でてやって扉に手をかけたまでは良かった。

 だがそこで俺は、仲良くやれよ、と余計な一言を付け加えてしまった。
 失敗した──変な気を利かすんじゃなかった。これじゃ完全に妬いてるヤツだ。


「っ、帰るわ…」


 最悪だ。?の前では良い格好していたかったのに。






「修兵、」




 …──え、?

 いま、こいつ俺の名前、




「…変な勘違いとか、しないで」




 ?は隣に立つ坂上をちらりと見上げて小さく言った。
 その声が心なしか拗ねているように聴こえたのは、俺の欲目だろうか。



「そんなんじゃないから、」



 あー…もう、




 ?は俺に、弁解してるのだ。




 自分と隣の男は、俺が疑っているような関係ではないからと。だから心配するなと。
 俺と?が“そういう関係”だって認めてるようなもんじゃねぇか。

 どんだけ可愛いんだコイツは。




 事の成り行きを面白そうに眺めていた綾瀬川も、さっきから?のことばかり見てるこの男ももう、もうどうでもいい。




 俺は衝動に任せて?の腕を引っ張った。

 そしてその勢いのまま胸にぶつかってきた細い体をぎゅう、と思いっきり抱き締める。
 そりゃもう、すぐにでも暴れだしそうな?の動きを全部殺すくらいの強さで。




「本当に、…お前俺をどうしたいわけ?どうしてほしいの?」




 両腕で?の背中をまさぐるように撫でながら、赤くなってる耳に唇で触れると、余程恥ずかしかったのか?は肩をすくめて逃れようと必死だ。




「っ、離して!」
「…可愛い、?」
「かわいくない…っ」



 そろそろ俺は本気で危ないかもしれない。

 イヤだと震える声にさえ、こんなに欲情してる。



「可愛いって。ホントすげぇ可愛い。お前が不細工だったらどんだけ良かったかって俺さ、いつも思ってる」

「…」





「そうすればほかの男は?に見向きもしなくなって、?のこと見んのは俺だけになるのに」





 末期だと笑えばいい。俺は本気だ。

 本気で?が、







「好きだ」






 @@愛は顔を真っ赤にして俺の脇腹をつねった。
 けどそれきり俺の腕の中で子猫みたいに小さくなって、抱かれたままになってくれた。








檜佐木さんが何よりうれしかったのは?ちゃんが名前を呼んでくれたこと。
というわけではじめて名前を呼んでくれた日でした。
実は次のお話が馴れ初め編クライマックスです!




 





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