あのときのアイツの一体何が良かったのか、正直今でも分からない。 確か、新入隊士の中にすごく可愛いのがいると聞いて、しかもそれがよりによって十一番隊に配属されたと聞いて、野次馬丸出しで見物に行ったのが最初。 隊士を捕まえて問いただせば、昼過ぎはいつも斑目三席と手合わせしていると言う。 なんつー隊だよ、入ったばかりの女の子しごくなんて。 そう呆れながら試練場の扉を開けたのもつかの間、俺の耳に突き刺さってきたのは斑目さんの怒号──ではなく女の罵声だった。 女は??という名だった。 見てくれだけなら美人中の美人、俺ですらお目にかかったこともないまさに絶世の美女。 その美女が、十一番隊のヤツでもそこまでは言わないだろうと思うような罵詈雑言を吐きまくっていたのだ。耳を疑った。何より、あの瞳がいけなかった。 猜疑心と闘争本能で、ギラギラした瞳。 コイツは駄目だと思った。 確かに美人だが、あれじゃ抜き身の刀みたいなものだ。死神としてやっていけるのかとさえ思った。 「九番隊の檜佐木だ、よろしくな」 そんなヤツだったから、斑目さんが手合わせを中断して俺にその女を紹介してくれたとき、俺はさぁ睨まれるか噛み付かれるか、と身構えた。 正直に言えば手を差し出すのさえ一瞬ためらったくらいだ。 「…」 だが意外にも女は素直に俺の手を握った。 繋がれたその手を、ただじっと見つめていた。 ──それだけだ。 たったそれだけだったのに、あの日から俺の心のどこかにはいつもあの女がいるようになった。 たとえば、無表情を崩さないアイツが俺だけのために笑ってくれたら。 未だ耳にしたことのない声で、俺の名を呼んでくれたら。 そんな考えもあったが、それより何より俺はただ気づかせてやりたかったんだと思う。 ──そんな風に、怯えて人を寄せ付けないようにする必要なんて、ないんだと。 漠然とした思いを俺がはっきり自覚したのは、アイツが流魂街出身だと聞いてからだった。 本人がまったく自分の話をしないものだから噂でしかないが、何でも東の八十地区にいたらしい。たった、一人で。 俺も流魂街にいたから知ってる。八十地区の凄惨さは、多分体験したヤツにしか解らない。想像が追い付くことなんて一つもない、恐ろしい所だ。 それは、どんな日々だったか。 生きたいと願って、必死に自分を守り通すか。 それとも、死んでしまいたいと命を投げ出すか。 女子供にさえそんな二択しか与えられない場所で?は生きた。生き抜いて、ここで死神としての暮らしを得た。 そんなアイツに、俺が何をしてやれるっていうんだろう。 そこまで考えて、余計に分からなくなる。 ──どうしてあのとき俺は、迷うことなく?に惚れたのか。 ▼ という話(どーん) 修兵→?ちゃんなのではなく、 修兵→←?ちゃんなんだぜっていうお話。要は2人の馴れ初めです! |