「さー準備は良い?!」 「よっしゃァ!」 「修兵が戸開けたら…って一護、顔が変よ、ものすごく」 「乱菊さん…へこむんスけど」 「あっはっはごめんごめん!」 「仕方ないっすよ、コイツ今さっき?の誕生日が今日だ、って知ったんすから」 「…恋次テメェ笑ってんじゃねぇ!」 「ッ、!いってぇなオイコラ」 「抜けちまえこの、っ!」 「だーッ!髪を引っ張んな、髪を!」 「騒がしいなぁ…もう来るんじゃないの檜佐木さん」 「…」 「ちょっと一角?僕の話聞いてる?」 「気づかねぇか弓親」 「は…?何のことさ」 「前にもあったぞ、このパターン」 「…」 「………さぁ。覚えてないけど」 「何だ今の間は!」 * Let us be with you everytime of our lives. どいつもこいつも馬鹿じゃねぇか。 今日はいたって普通の日で、まあ確かに俺は非番だった。 しかし自分で言うのも何だが、十一番隊の主要戦力なはずの三席と五席が揃って非番、これは少しばかり普通じゃない。でもってサボり常習犯の松本はともかく、あの無慈悲な朽木隊長から何の制裁も受けず、つーか生きてここにいる阿散井は、一体どんな手を使って非番を勝ち取ったのか。 だが何より一番驚いたのは、日光を浴びたら死ぬらしいと噂されるくらいほとんど、滅多に、絶対に、昼間外を出歩かない技局の阿近が、さも普通ですみてェな顔で俺らと一緒にいることだ。 ――さあ、俺の疑問を解決してくれるのは、誰だ。 「あ、そういやこの前来たとき白哉ンとこに教科書置き忘れたんだったわ」 「テメェは何で普通にいるんだ一護」 お前がいることが一番びっくりだ。 だがうちのお姫サマと「マジで俺運命かと思った」という出会いをして以来、一護は事あるごとに現世からやってくる。 「一角、さっきから何イライラしてるのさ」 「してねぇよ。俺はまともだ、唯一」 弓親のヤツがこれ見よがしにため息を吐く。 かと思えばイラッとくるような得意気な顔で、ぼそりとこう言った。 「…とか何とか言って、自分が一番楽しみにしてたくせに」 ――?の、誕生日。 俺の態度に呆れたらしい弓親は、それきり座敷の奥へ戻っていった。 ?が好きだった。 可愛い部下だからとかそんなのじゃない、ひとりの女として、アイツが好きだった。 ただ、見かけによらず繊細だよね、と弓親に言わしめた性格の俺には、見るからに惹かれ合って、見るからに幸せそうな二人の邪魔をする趣味なんてなかっただけだ。 そう思うまでには檜佐木を羨んだこともあったし、?に迫ってみたりもした。が、最終的にいつも、アイツらがいかに互いを必要としてるかを実感して終わった。 ?の部下がメノスにやられたあの事件のときだって、荒れに荒れてもう駄目かってくらいだったアイツを泣かせてやって、笑わせてやれたのは檜佐木だ。 だから、これで良い。 ?はきっと幸せになれる。 それでほっとしてる辺り、俺にはこの立ち位置が合ってるのかもしれなかった。 「斑目さん」 ふいに呼ばれた先には、 「…完全に同じパターンだな」 ?をおぶって立つ、檜佐木の姿が。 あの日とは真逆の自分たちに思わず二人して苦笑して、俺は手の中の徳利を掲げてみせた。 「…旨いですねコレ」 「俺が選んだ酒だからな」 宴の喧騒から少し離れた、縁側の涼しい風の下。 有り難く飲めよ、と徳利を差し出され、もう何杯めかもわからないそれを勢いよく喉に流し込む。 仰け反った拍子にちょっとバランスを崩して、膝で寝てる?がうざったそうに身じろぎした。 「ッんとに、起きねェな」 「…そうですね」 相変わらず眠り続ける?の頬を撫でてやれば、ひんやりとしたそこは酒で熱を持った俺の指に心地良かった。 ?の誕生日パーティーの今日、主賓のお迎え係を仰せつかったのは斑目さんではなく、俺だった。 あの事件の後俺との関係が完全に公になってしまったし、?の性格上しばらくは近付かせてくれないだろうと腹をくくっていたから、?のほうから「ついてきて」と言われたときはどれだけ驚いたか。 ついでに言えば、人前でこんなに無防備に寝てくれるようになったのもあの後からだ。 心を開いてくれた、と思って良いんだよな。 「これでやっと、落ち着けるな」 俺に一番近い立場だったろう斑目さんの、本当に安心したようなその言葉は、それだけに妙に込み上げてくるものがあった。 「…ありがとうございました、コイツのこととか、色々」 「お前が礼言うことじゃねェだろ」 「まあ、そうっスけど、」 「俺は」 そこで声が途切れ、ぼーっと?の頬を眺めていた俺がふと視線を上げれば、斑目さんがやけに真剣な顔でこっちを見ていた。 「?が好きだ、多分、一生な」 「…」 そう言った瞳の力強さに、心臓が揺れる。 ――が、緊張もそこまでだった。 「…何か言えよ」 「何言やぁいいんスか」 随分と重たい告白をうけたはずなのに、二人して何だか拍子抜けしてしまって。 おまけに二人していつもより酔いが回ってるらしく、ニヤニヤしだした斑目さんに俺もにやりと笑みを返す。 「どうせ死ぬまで連れ添うつもりなんだろ、たまによこせよ」 「よこせ、って何を…?をですか」 「おうよ」 「無理です」 「ケチケチすんじゃねェ」 「…ケチケチとかそういうんじゃないでしょうが」 こうやって話してる間も、斑目さんは投げ出された?の足を指でなぞったりくすぐったりしているのだ。油断も隙もあったもんじゃない。 だから俺は、いまだ熟睡中の姫君を膝の上に抱え上げ、頬をすり寄せながら言ってやる。 「俺のです」 酔っ払い相手にもそれは十分効果があったらしく、斑目さんは忌々しそうに顔を歪めて酒を煽った。 「ほんっと面白くねぇな」 「どうも」 「褒めてねぇ」 ブツブツ文句をたれ続ける斑目さんには笑みで返して、俺はまた腕の中の?に視線を戻す。 出会った頃と変わらない綺麗な顔。 でもよく笑うようになった。自分から話をするようにもなった。 あの日から変わっていったことが、一つ残らず、?にとって良いことだといい。 「…そろそろ起こしてやれ、そこまで同じパターンは勘弁だからな」 ああそうだ、今日は?の誕生日。 ?と俺が出会った日。 君が信じたものすべて 『誕生、日…?』 『そう。誰かの生まれた日をみんなでお祝いすんの』 『私、でも、分からないから』 『そんなの』 『…』 『いつだっていい』 『…』 『いつだっていいんだ、?が嬉しかった日』 『あの、』 『ん?』 『あの、じゃあ』 『修兵に、会った日』 ――愛しい姫に、目覚めのキスを。 ▼これにて10000打企画終了です。 アンケートを始めたのは9月なのに、こんなに長いことお待たせしてしまって本当にごめんなさい。 投票してくださった方、お話を読みにきてくださった方、ありがとうございました。 これからもdawns star rabitをよろしくお願いします(´∀`) 2010.12.3 海崎愛 |