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 ?に惚れ込んで必死にその背中を追っていた俺も、昨日付けで晴れて三席となった。



 しかし、だからと言って特に何が変化したわけでもない。

 それはひとえに、あのサボり癖のある副官のせいだ。



 六席だった頃も、俺が任される仕事は大抵があいつが溜め込んでいたものだった。
 だが、そのおかげで本来ならあまり顔を合わせることのない?と、ほぼ毎日一緒にいられたことは認める。他隊の同じ席次の奴らが聞けば引っくり返るだろう、それくらい、俺は、実は恵まれていたのかもしれない──上司と、運に。



 にも関わらず、?について俺が知っていることは、残念ながらそれほど多くはない。



 漬け物が好きで、カニは嫌い。

 鬼道と歩法は信じられないほどの腕前をもつが白打は滅多に使わない。ひょっとすると苦手なのかもしれない。?の死覇装は、最初から白打には向かない袖の長い造りだったからだ。



 以前、卯ノ花さんくらい伸ばしてみたいと言っていた髪は、今はまだ腰に届くか届かないか。
 ?の髪は艶々しているから、長くなったらさぞ綺麗だろうと思う。

 あと、隊長格の中で背が低いことを気にしているらしいが、どこか抜けている?はなぜか同じ女性ではなく、ただでさえ長身の男隊長ばかりライバル視していた。



 ?のそばにいるようになってからまだ日の浅い俺が知っていることと言ったら、本当に、これくらいのものなのだ。



 ──だから。



「…こんなところでやめて、そういう話」
「良いだろ別に。じゃ、なんだ、上手くいってんだな日番谷と」



 二人寄り添って歩くその姿に、いま初めて違和感を覚えたって。



 不思議でも何でも、ない。



「冗談だと思ってたんでしょう?」
「そりゃ、な。あんな餓鬼捕まえるなんてよ」

「冬獅郎は拳西よりよっぽど大人です」
「…うっせ」



 自隊の廊下の、中庭を挟んだ反対側に見えた二人が、隣の隊の隊長同士と言うにはあまりに親しげで。

 俺は反射的に身を隠していた。



 時間からして、隊首会の帰りといったところだろう。

 逞しい腕が伸びて、隊首室の鍵を開けようとする?の手から重そうな書類の束を取り上げる。
 そうしてから当たり前のように戸を開けてやる動作が、憎らしいくらい、自然で。



 色恋沙汰に疎い俺でも容易に気付いた。気付いてしまった。



 二人が──今は俺の恋人である?と六車隊長が、名前のついた関係だったということに。



「ありがとう、あとは大丈夫」
「何気ィ遣ってんだ、執務室に運ぶんだろ」

「…良いよ、誰か呼ぶから」
「日番谷か」

「拳西、」



 ?が努めて静かな声で名前を呼ぶ。

 それが怒る一歩手前のときの?の癖だと、知っているのは──知って良いのは、俺だけだと思っていたのに。
 昨日だって、もしかしたらそれ以前にだって、こんな瞬間がもう何度もあったのかもしれない。



「悪かった、って!…ちっとはからかわせろよ」
「…拳西ね、本気と冗談の顔が同じなの、いい加減気付いてね」



 ため息混じりにそう言って、?がむき出しの男の腕をぽんぽん、と二つ叩く。



 ──ああ、



「バーカよく見ろ思いっきり冗談の顔だろこれ…──、あ」



 駄目だ。



「?、後ろ」
「うしろ?…──冬獅郎!」





 顎で俺を教えたそいつも、慌てたような声で俺を呼ぶ?も。





 無性に腹立たしい。





 我慢の限界だったらしい俺は、気付けば小走りで渡り廊下を駆け、振り返る?のそのすぐ後ろに立っていた。



「…」
「冬獅郎?」

 俺は何も答えないまま、乱暴に?の手を掴んだ。

「ちょっと…冬獅郎、っ」

 声では俺をなだめようとしてるくせに、あまり動揺の感じられない綺麗な顔を一瞥して、温い手を引っ張る。
 廊下の端まで行ったところで、諦めたようにその手から力が抜けた。



「冬獅郎」

「…」



 無理矢理連れてきたのに、目を合わせれば、?はいつもみたいにとろりと微笑んで俺の手を柔らかく握り返してきた。
 どこまでも優しいそのしぐさに罪悪感はただただ増す一方だ。

 俺は、?の、望むことをしてやりたいのに。



 なのに、





 ──あの男と二人でいさせるのが嫌だ。



 あの男の名を呼ばせるのも嫌だ。





 俺のいないところで、?がほかの男と話をするのも笑い合うのも、きっと俺は許せない。





「ごめん」



 嫌がってもいい、怒ってもいい。

 できれば嫌われたくはないが、側にいられるのなら、それでもいい。





「俺は、っ──…どうしても?が好きだ」





 だから、側に。





 独占欲と罪悪感でぐちゃぐちゃになったわけの分からない告白に、返ってきたのはそろり、静かなため息。



「…」
「…」

「ねぇ、冬獅郎」
「…」



 うつ向くばかりの俺の首筋に、?が空いた片手をすべらせて顔を上げるよう力を込めてくる。

 促されるままに視線を戻すと、?は困ったように笑って俺の頬に唇を寄せた。

「っ、…?」



「そんな顔しちゃ駄目」



 弱々しく聴こえるほど小さな声でそれだけ言うと、細い両腕が俺の腰にぎゅう、と巻きついて、体が?の温もりに包まれる。



「…ずっと一緒にいたくなっちゃうでしょう」

「──っ、!」



 心臓が強く揺さぶられた。



 恐ろしく早鐘を打つ胸にぴったり顔をくっつけてくる?を抱き返してもやれず、鷲掴みにされるってのはこのことか、と俺は妙なところで感心していた。



「冬獅郎が思ってるほど、私は」



 そうかと思えば背中にまわされた手がきゅ、と俺の死覇装を握り締め、?は胸の中で俺を見上げた。



「私はね、大人じゃないの」



 泣きそうに瞳を潤ませ微笑む?は、息を飲むほど綺麗だ。



 ──妬いてくれて嬉しいの、ごめんなさい。



 そう言った?を、俺は今度こそ思いっきり抱き締めた。







斬らずとも、見える愛






「?、あとで仕置きな」
「え…どうして」



「呼び捨て禁止っつったろ?」













はつ恋番外編でした!
投票してくださったお嬢さま、ありがとうございました。
普段シロちゃん夢は読まないけどはつ恋は好き、のお言葉に本気泣き入りそうでした…ッ!

冬獅郎お相手のこの話は、わたしがサイトを開設するきっかけになったものです。
妄想がふくらみにふくらんで思わず電波に乗せちゃったわけですね。
既にエンディングも考えてあるんですが、脱色自体の終わりにも絡んでしまうたいへん図々しい妄想であるがために、本物の様子を伺いつつ書き進めていくつもりです。

にしても、この二人はどっちに主導権があるわけでもないのでなかなか書くのに苦労します。
年齢で言えば?ちゃんだけど、何だかんだ?ちゃんも冬獅郎にべた惚れなので…。



シャムロック(シロツメクサ)…忠節





 





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