みなさんご機嫌麗しゅう。 暑い日が続くなか、いつも拙宅にお越しいただきありがとうございます。 本当によくもまあ携帯をポチポチッとやるだけで滴る汗。携帯を持つ手が汗で滑るわ。 みなさん水分はこまめに摂ってくださいね。 それはそうと、今回九番隊の檜佐木さんがお誕生日を迎えられたということで、何やらみなさんサプライズでお祝いをするそうですね。 ぜひ私もと思ったのですが、今回はナレーションに徹するよう仰せつかってますので、私のことは天の声、とでもお考えください。 …おや、そうこうしている間に早速どなたかが?ちゃんをデコレイトするための材料を持ってきてくれたようです。 こっそり十一番隊にお邪魔してみましょう。レッツ覗き。 「…」 「…」 おっとこれは──のっけからただならぬ雰囲気です。 天の声でなければ私、今すぐ何も見なかったことにして立ち去りたいくらいです。 「…」 どうせ全員無言なのでどれが誰などどうでも良いような気もしますが一応、上から?ちゃん、綾瀬川五席、斑目三席それぞれによる無言の重圧です。 本来ならば上位席官は全員机に向かっているはずの時間に、この三人しかいないというのはどういうことでしょう。 とにもかくにも三人は室内で微妙な距離をとりつつ、互いに牽制し合っているのです。 「…だーッ!ンで睨むんだよ俺を!さっさと着てさっさと脱ぎゃいいだろうが!」 「一角うるさい」 「斑目うるさい」 ふむふむ、斑目三席は沈黙が苦手なようです。 そしてどうやら、この迷惑な雰囲気は綾瀬川五席が手にしている黒い物体によるもののようですね。 三席と五席は先ほどから胡散臭そうにチラチラ見ているし、?ちゃんに至っては、視線で焼き尽くせるのではというくらい恐ろしい目でその物体を睨み付けているのです。 一体何だというのでしょう、わたくし天の声にも未だに分からな…──おや、カンペが。 はっはー「夜一様ごっこ用なりきり黒猫セット」だそうです! どなたですか二番隊に行ったのは。 まったく厄介な物を──いえ、檜佐木さんにしてみればこれ以上嬉しいものはないかもしれませんね。 いつもはちょろりとも甘えてくれない恋人が、今日はあられもない姿で誕生日を祝ってくれるのですから。 そうと分かれば?ちゃんには何がなんでも黒猫になってもらわなくてはなりません。 ご安心くださいみなさん。 今回のこのサプライズ、檜佐木さんのために、ドSでツンツンデレツンツンな?ちゃんでも決してノーとは言えないようになっております。 そのためのナレーション、そう!私の出番! ──では。 ?ちゃんは黒猫セットを身に付け、椅子の上できゅ、と膝を抱えて小さくなりました。 「な、な、うそ…ッ」 「?、お前、」 「…暑さで頭やられちゃった?」 まあ何と言うことでしょう。 鬼のような形相で黒猫セットを睨んでいた?ちゃんが一変して、頬を赤く染めて椅子の上で小さくなっているのです。 甘すぎないデザインの黒いキャミソールに、こちらは見るからにハードな黒レザーのホットパンツ。裾から覗くガーターベルトが扇情的ですね。 そして極めつけはもちろん、絶妙な手触りの黒い猫耳と長いしっぽ。 いやはやさすが夜一様ごっこ用と言うだけあって、可愛いだけではない大人なデザインのセットです。 それらすべてを身に付けた?ちゃんは、もはや完全なる黒猫。 どうですこれぞナレーションの力。 物語の筋書きを自由に操れる、問答無用の権力です。 ?ちゃんはたいへん気に入らないようですが、残念、これは檜佐木さんのための作戦ですので。 さあ、準備が整ったところで早速檜佐木さんをお呼びしましょう。 邪魔者は退散させました。ええ、ナレーションの権力で。 「?、いるか…?」 来ましたね、本日の主役。 訳もわからず連れてこられて戸惑っているようですが、遠慮することはありません檜佐木。 さあその扉を開けておしまい! 「?──、…っ?!」 「…見るな馬鹿!」 「…や、悪ィ、じゃなくて…え、何コレどした?」 「知らない」 「…」 「見ないでってば」 「?…」 「あっち行って!出てって!」 「無理だろ、可愛すぎ」 「も、やだ…」 「?」 「…」 「おいで」 「ここ座って」 「今日はやけに素直だな」 「…」 「ちょい腰浮かせろ、…よ、っと。このほうが楽だろ」 「…」 「?ー」 「…修、」 「ん?」 「あの、…誕生日、おめでと」 「へ、?」 「ッ、言うまで帰れないって言われたから言っただけだから。別に君がいくつになろうが私の知ったことじゃな──…」 「…」 「なに笑ってるのよ」 「…?」 「だから何、」 「すげぇ嬉しい。ありがとう」 「?に祝ってもらえるとは思わなかった。最高」 「…馬鹿じゃないの」 「いいよ馬鹿で。あーやべェほんと可愛い」 「触んないで…っちょ、修兵、だめ」 ハイおしまーい。 ほらみなさん撤退しますよ、撤退。 まさか最後まで覗くだなんて無粋な真似はできませんよね。あとはお二人の時間ですから。 ──ああ、忘れるところでした。 お誕生日おめでとう檜佐木さん。 |