はつ恋2 | ナノ







 単刀直入に言おう。

 俺は回りくどいのが嫌いだ。


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はつ恋2 4
―――――――

 残念だが俺は時間に関する感覚が薄いようで、正確に何ヶ月前のことだったか既に思い出せないしさして興味もない、重要とも思えない。
 しかしとにかく数ヶ月前、??という女の死神がここ虚夜宮に連れてこられた。
 俺個人の意見として、純粋に藍染様を慕う者以外を宮に入れるべきではないと思うのだが、今回の場合は他ならぬ藍染様のなさったことであり、当然口出しの余地などない。


 何より、最も問題なのは、実際のところ女を監視するのは俺たち破面の役目になったということだ。



 死神の世話役など誰一人として引き受けるものかとそれだけは異を唱えもしたが、結局、まったく不本意だが、他に術もないので仕方なく、俺たちは女の世話を引き受け――


「光弾、八…身、九条、えーっと…――駄目、わかりません」
「天経だ。惜しかったな」
「ああもう、ごめんなさいスターク、私覚えが悪くて…」
「気にしなくて良い。どうせ暇なんだ、ゆっくりやろうぜ」


 ――まあ多少の例外はあるが、俺たちはこうして渋々女の世話を焼いていると言うわけだ。

 ちなみに今たまたま通りかかったスタークの宮では、ちょうど女がスタークから鬼道を教わっている。
 記憶をなくした女のためにと、藍染様が瀞霊廷より死神共の使うらしい教本を持ち帰られたのだ。

「これで破道はあらかた終わりだ、さすがだな」
「…でもちゃんと打てるようにならないと」
「真面目だな?は。実戦は、ま、そのうち」
「そう言ってスタークいつも逃げちゃうでしょう」

 どんな目的で藍染様がこの女を虚園に連れてきたのかは分からない。
 しかしいずれにせよ記憶がないままでは役に立たないとはお考えなのか、ここのところ女は、記憶とともに失われた死神の――隊長格としての力を取り戻すべく勉強をさせられているのだ。

 まったく、あまり根を詰めては体に障ると昨日もあれほど言い聞かせておいたのに、この女ときたらなかなかの頑固者らしい。

「だってさー?いつも本気で追っかけてくるから俺も結構恐いわけ」
「スタークが逃げないなら追いかけません」「逃げなかったら逃げなかったで餌食になるし?」
「もう!」

 そうこうしているうちに二人が何やら言い争いを始めかねない雰囲気になってきたので、仕方なく俺は部屋の中に足を踏み入れた。





「ウルキオラ!」





 彼女に名を呼ばれると、いつも体の中心で何かが大きくずれるような音がする。
 息が詰まるような、苦しいようなこの現象は不可解以外の何物でもなくて俺は嫌いだった。

「こんにちは、今日は藍染様と一緒じゃないのね」
「ああ。だからお前に付き合ってやろうと思ったが…邪魔をしたようだな」
「ああ、お散歩!」
「行くか」
「はい!」

 藍染様か俺の許可がなくては外へ出られない女を、こうして連れ出してやるのは何回目になるだろう。
 広さだけなら何物にも劣らない虚園だ、彼女の関心は尽きないようだった。


「あまり長くならないようになー俺たちと違って?は風邪ひくんだから」
「言われなくとも心得てる」


 女が教本を片付けて立ち上がったところでさりげなく手を引けば、スタークの声が追ってきた。
 興味があるのかないのかいつもぶっきらぼうな物言いしかしないこの男にしては珍しい、心配そうな口調だった。――グリムジョーとアーロニーロに毒されたな。

 それがなぜだか無性に気に食わなくて、いってきますと笑顔を返す女の手を強く握れば、女はくるりと俺を振り返った。



「ありがとう」



 月のようだと思った。



 ここじゃない。現世に浮かぶ、丸い月。



 虚園のそれを見ても何とも思わないのに、どうしてかこの女の笑顔はあの柔らかそうな月光色を思い出させる。
 そしてそれは、俺の内部にまで暖かな重みをもたらすような気さえするから不思議でならない。言われる覚えのない感謝の言葉ですら、ただ静かに耳に響く。



「行こう、ウルキオラ」



 この女が来てからと言うもの、知らなかったことばかりが起きている気がする。

 握り返してくる手は暖かい。


「ああ――…?」



―――――――
はつ恋2 4
―――――――


 時間も場所も、俺がそこにいることさえどうでもいいような気がするのだ。


 お前が笑ってくれるなら。











ウルキオラっぽい無機質な文にしたかったのに、駄目、この子?ちゃんが好きすぎるらしいよ。
次回はいよいよあの方が登場します!





 





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