「スターク!大変だよ!」 そう言ってこいつが飛び込んでくるのは、多分もう六回──いや七回目かもしれない。 最初の頃は俺もそれなりに慌ててみたが、その必要がないと分かってからはいちいち反応しなくなった。 「何してんのさ!早く!」 しかしこいつは違うようで、俺が自分の腕を枕に寝転んだまま動こうとしないのを見て痺れを切らしたらしく、腹の上にどすんと飛び乗ってきた。 一瞬、息が詰まった。 ─────── はつ恋2 3 ─────── 「リリネット…重い」 「う、うるさーい!そんなことより!@@愛が大変なんだってば!」 「…どうせグリムジョーだろう」 呆れながらそう言ってやれば、リリネットはなぜ分かったと言いたげな顔で静止した。 なぜも何も、同じ理由でこいつが俺の所に来るのはもう七回──いや八回目だったか?とにかくそんなところだ。 「またいつもの喧嘩か」 あの女の死神が連れて来られてからというもの、少しだけ虚夜宮の雰囲気が変わった。 さすがは元隊長とでも言えば良いのか、全く記憶がないのにも関わらずあの?という女には不思議な魅力があった。 目を覚ましてから、初めて会いに行ったとき。 アーロニーロやグリムジョーと違ってそれまで俺は?に何の興味もなかったから、会いに行ったのもリリネットに引っ張られて渋々、だった。そのはずだった。 だがそのとき見た?の、場違いなほどの笑顔。 会いたかったと?は言った。ほかの十刃はみんな来てくれたけど、俺だけ会ったことがなかったから楽しみにしていたのだと。 そう言って最後によろしくお願いします、と丁寧に頭を下げた?を見て、俺は直感で、信じてしまった。 こいつはいなくならない。 俺たちを捨てない。 そんな俺の些細な変化を無意識に感じ取ったのか、?はすぐ俺になついた。それはもうアーロニーロがふてくされグリムジョーが猛然と焼きもちを焼くくらいに。 そしてそれからというもの、俺にはある役目ができた。 ──グリムジョーと?の喧嘩を止めに行くこと。 「…それくらいにしてやれ、グリムジョー」 「スターク」 案の定、グリムジョーの宮ではソファーに腰かけたグリムジョーと床に正座の?が、何やら重たげな空気を漂わせながら向き合っていた。 もちろん、?にベタ惚れのグリムジョーが?と言い争いやら掴み合いをするはずがない。一人でザエルアポロの宮に行かない、という言い付けを見事に破りまくる?に、グリムジョーが行き過ぎたお説教を食らわせてるだけだ。 「スターク…っ」 「?もだ。また約束破ったのか」 「だって、ザエルアポロが迎えに来てくれるって言うから良いと思ったんです…」 多分そういう問題じゃない、とグリムジョーの顔を見れば分かるのだが。 大方、自分以外の男──とくにザエルアポロのところに行かせるのが嫌だというところだろう。 「でもお前が急にいなくなったら心配するだろ」 「アーロニーロがお知らせするから大丈夫だよって言ってたから…っ」 「…」 どうにも、最近あいつの認識同期が?の居所確認になっている感じが否めない。 しかしそれに対して誰も何も言わないあたり、虚夜宮が?を中心にまわっているのは確実だ。 「…アイツの言うことは信用すんなって言ったよな?」 「でも、」 「勝手に出歩くなってのも言った」 ?を責めるグリムジョーの口調がきつい。 「ごめ、っなさい…ッ」 でも?が小さく泣き出してしまうと、グリムジョーの視線は途端に鋭さを失って、睨んで良いものか決めかねてるように泳ぎだした。 「?」 「っ、はい…ッ」 「泣くな」 どうやら今回はグリムジョーが折れることになったらしい。 「もう良いから」 「ふ、っ…はい、ッ」 「来い」 グリムジョーが一言そう言うと?はぱらぱら涙を落としながらも立ち上がる。 怒られていたせいかどこか遠慮がちな?。待ちきれなかったらしいグリムジョーは強引に?の尻あたりを抱え上げ、膝に乗せ向かい合った。 「目ェ赤くなってんじゃねぇかよ」 「だ、大丈夫です…」 グリムジョーが少し膝を持ち上げれば?はずるずるとグリムジョーにもたれかかってしまう。 それでもされるがままの?を、グリムジョーがしてやったりとばかりに抱き締めた。 ──と 以上が、?が言い付けを破ったときに恒例となっているやりとりだ。 正直に言わせてもらえば、グリムジョーも?もリリネットも、毎回毎回よく飽きないものだと思う。 だがそれに付き合ってる俺も俺で?に構いたくて仕方ないんだから厄介だ。 ─────── はつ恋2 3 ─────── 「グリムジョー」 「ンだよ」 「…いや、やっぱりいい。せいぜい甘やかしてやれ」 「てめぇに言われたくねェ」 ▼ スタークがよくわからなくてとりあえず淡々とさせてみました。 スターク好きです。 |