はつ恋2 | ナノ








「ダメだ、全部食え」
「嫌です」
「そう言って今朝も残したろ!」
「…でも」
「ホラ食え、」
「…」


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はつ恋2 2
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 この場合疑うべきはその女の存在かアーロニーロの正気か、はたまた俺の目か。

 どちらにしても、俺は今目の前で起こっていることを受け入れられるだけの器を持ち合わせちゃいないらしい。


「…アーロニーロ」
「グリムジョー、突っ立ってないで入ってくりゃ良いのに」

「…何してんだ」

「何、ってメシ。な、?」
「はい。あ、失敬失敬」


 思わず額を手で覆うというありきたりなポーズをとってしまったが、それくらいこの状況は理解不能だった。


 真っ白い部屋に真っ白いベッド。
 サイドボードに置かれた食事を口にしているのは、最近藍染サマが連れてきたという女の死神だ。
 勿論ただ食ってるだけなら良い、文句は言わない。



 だがその死神は、アーロニーロの膝の上で、アーロニーロの手で食事をさせられていた。



 親鳥のように女の口に忙しなく食べ物を運び、後ろからしっかり抱き込んだまま「口を開けろ」とばかりに空いた左手で女の唇を突っつくアーロニーロ。その顔は見たこともないような優しい笑顔で寒気がする。
 女のほうは、ブツブツ好き嫌いしながらも急かされる度に上向いて大人しく口を開けてやっていた。


 ──誰かこんな光景を目の当たりにしてしまった俺の心境を察してくれ。

 いや、やっぱり先にこいつらをどうにかしてくれ。


 ありきたりなポーズのままで、でかい溜め息まで吐いてしまう。
 今日はもう駄目だ。宮から出たのが間違いだった。


「グリムジョー、」


 などと考えていたら、突然頼りない声に名前を呼ばれた。
 顔を上げるといつの間にここまで来たのか死神が俺の真ん前にいてぎょっとする。そう言えばこの女、さっき最後に何か妙な科白を口走ったような。

「自己紹介がまだでした。?です」
「…」

 ぺこりと頭を下げられて反応できずにいたら、女は憮然とした表情で付け加えた。


「人が名乗ったら名乗りなさい」


「…おいアーロニーロ」
「悪い、?は記憶飛んじまってるせいかどうも話し方に一貫性がなくってなあ。練習中なんだ」

 たまに口悪くてさー参った参ったと笑うその顔を、俺は今、全力で殴りたい。
 それができないでいるのは、期待に目をキラキラさせてる女が目の前で小首を傾げてるから。

 間近で対面して気付いたが、この女は時たま目を疑うくらい大人びた表情を見せる。聞いた話じゃ隊長だったというから、そっちが元々の性分なんだろう。
 覚束ない言動は逆に、その艶やかな仕草を際立たせていた。


「…名前ならもう知ってんだろ」


 仕方なく、本当に仕方なく言ってやれば、真ん前にいるくせに話しかけられたのが自分だとは気付かなかったらしく、女は不思議そうに目を見開いたまま固まった。
 だがそれも数秒で、一瞬の後には心臓に悪いくらいの笑顔になる。

「グリムジョー!」
「…ああ」
「名前じゃない方は?」
「…ジャガージャック」
「?は?です。?、?」


 よろしくお願いします、と丁寧に頭を下げる女。
 変なヤツだと思いながらまじまじとその様子を見ていたら、顔を上げた瞬間ばっちり目があってしまった。


「グリムジョーの目、綺麗ね」


 音がしそうなほどにっこり微笑まれて、綺麗なのはどっちだなんて思ってしまったのはもう、不可抗力だ。


「?、まだ食い終わってねぇだろ、こっち来い」
「はい。グリムジョーも一緒にご飯食べましょう」


 俺が抵抗を諦めた隙をついて、?はあれよあれよという間に俺の手を引っ張ってベッドまで戻り座らせる。

「おい何で俺が…っ!」
「?に気に入られたなグリムジョー」

 あまりにあっという間で止めることすらできなかったが、何が嬉しくて俺がアーロニーロと向かい合わなければならないんだ。

 しかもアーロニーロはさっきの気持ち悪い笑顔で箸を握って待っている。


「どっこらせ、」
「…それは真似しちゃダメって言ったろ」




 ──待て。




 何だこの状況は。




「グリムジョー固いです。お尻痛い」
「…人の膝の感想も言ってやるなっての。ホラ口開けろ」


 ベッドに座らされた俺、の上にちょこんと──いやかなり我が物顔で座る?。

 上から覗き込めば、差し出された箸をかぷりとくわえ、アーロニーロの「よく噛めよ」という言葉のままに、一心に咀嚼しているのが見えた。

 何てヤツだ。

 こんなふてぶてしい記憶喪失があるか、と呆れ半分、なつかれたという嬉しさ半分、俺は複雑な心境でずり落ちる?の腹に腕をまわして支えた。
 今思えば自分でも驚くほど自然に、俺は?を抱き締めていたわけだ。それを見て見ぬフリをしてくれれば良いのに、?は嬉しそうに声を上げた。


「グリムジョー、手大きい」


 指長い、すごい、などとはしゃぎながら食事そっちのけで何の愛嬌もない俺の手をつまみ上げる?。
 悔しいことに俺も満更でもなくて、アーロニーロの目を盗みつつ、その白い綺麗な手を力を込めて握ってみる。


「…?」


 ごく小さな声で囁けば、耳元で鈴を転がしたような笑い声が上がった。


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はつ恋2 2
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「グリムジョー、爪も長いですね!」
「まァな」
「肉食獣みたい」
「…」
「あながち間違っちゃいねぇよなー」
「黙れアーロニーロ」









そんなノリでみんな?さんに恋してしまうというアレ。
今さらですがアーロニーロは海燕ver.です。でも二つ頭ver.だろうが?さんの接し方は変わりません。







 





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