雪のようにさらさらときらめく髪。翡翠を溶かした薄い色の瞳。霊術院ではチヤホヤされたこともあったが、思い出したくもないからかいの種だった自分の容姿が、俺は嫌いだった。流魂街にいた頃なんて何度この色を呪ったか知れない。 「君は嫌いなの?」 綺麗だと、言われて思わず反論したら、?は悲しそうにほんの少し眉を下げた。 「嫌いです。良いことなんか一つもなかったから」 ?の前だというのに、数々の忌まわしい出来事が彷彿として吐き捨てるように言ってしまった。 「でも綺麗だよ。冬獅郎は」 ──ああ、この人は本当に。 「玻空に、似てる」 「…ハク?」 「そう、玻空。よく似てる」 「──似てねぇだろ、どう見ても」 ────── はつ恋 3 ────── 絶句、した。 一陣の風が渦を巻いて、ひとつ瞬く間に消えて。代わりにそこにいたのは、 「なッ、男…?」 驚きに仰け反っていた俺を、不貞腐れたような顔の男はジロリと一睨みしてから?の横に腰を下ろし、片腕を畳に付くと吸い付くように体を寄せて白羽織から覗く細い首筋に唇を押し当てた。 「もっと早く呼べよ。退屈すぎる」 「いたずらするでしょう」 ?がぴしゃりと言い放っても、男はニヤリと口の端を持ち上げただけだった。 「する、けど、?だけな」 一人目の前の光景についていけない俺は、そいつがいつの間にか満足げな表情で?の顎を捉えるのをぼうっと見ていることしか出来ない。 「玻空、冬獅郎に挨拶」 「…相変わらずつれねぇな」 男はふん、と鼻を鳴らして?の首に口付けるのを止め横目で俺を睨みつけ、さらにブツブツ文句を言ったあとでようやくこちらに体を向けた。悔しいが正面から見たそいつは男でも見惚れるくらい綺麗な顔をしていた。 柔らかそうな白い髪が動く度に揺れて輝き、襟足から覗く首筋も女のように白い。細身の体に、赤い石南花(しゃくなげ)が鮮やかな着流しを纏い、右耳に二つ、右手の中指と薬指には一つずつ、闇のように艶めく黒い石。そして俺と同じ、薄い翡翠の瞳。 「どーも、玻空です。何だっけ、太郎??に手ぇ出したら叩っ斬るから」 「玻空、」 「このガキが、俺に似てるとか言われて調子乗って?に迫ってくるかもしれねぇだろ」 「誰がガキだ、変態」 「うるせぇ太郎」 「冬獅郎だ!一文字しか合ってねぇよ馬鹿かあんた」 「ねぇ、二人とも、」 「?は黙ってろ」 さすがにお茶を勧めても仲裁に効果無しと見たのか、?は立ち上がってその馬鹿の顔をぺたりと両手で包み込んだ。 「玻空」 「…んだよ」 ?に見つめられた途端そいつの声色が優しくなったのは気のせいではない。?に惚れ込んでいるようだが、そもそもこの馬鹿は?の何なのか。 「まだ挨拶の途中でしょう。喧嘩はあとでね」 「喧嘩じゃねぇ、こいつが馬鹿なの」 それは俺の科白だ、と声を張り上げたかったが、それより我慢ならなかったのは、そいつが?の両手を取り片方は着流しから覗く素肌の胸元に触れさせて、もう片方はそのまま口元に滑らせぺろりと舐め上げたことだ。 「玻空」 「…わかったよ」 ?の両手を引いてそいつが腰を下ろし、つられた?もそいつの横に、俺は向かいに座った。 「ごめんね冬獅郎」 「いや、それより」 そこで俺は、立てた片膝に肘をつき手のひらで顎を支え不満そうにそっぽを向いていたそいつに目をやった。 「何すかそいつ」 俺の苛立ち紛れの低い声に、?は困ったように笑って言った。 「玻空は、私の斬魄刀だよ」 ?の、新たなびっくり発言。 (このふざけた奴が?と目で訴えたら隣のそいつが口をパクパクさせてバーカと言った) |