はつ恋 | ナノ








これは裏切りだ。


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はつ恋 1
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 地獄蝶が耳元で告げた知らせを、そのとき俺はまだ信じていなかった。隊舎の廊下を走り過ぎる席官に混じって隊首室の扉を叩くもそこは裳抜けの空で、ようやく俺はそれが事実だと知った。

 現十番隊隊長、隠密機動第一分隊刑軍総括軍団長??。



 彼女は消えた。



 十二番隊隊長浦原喜助、及び隠密機動総司令官四楓院夜一の逃走補助。中央四十六室が数時間前に公表した?の罪状は、到底信じがたいものだった。仰々しい書面で届いたそれを俺は即座に破り捨てた。



 だが彼女は消えた。



 処罰を恐れての逃亡だと、誰も疑わなかった。瀞霊廷を裏切った彼女をみな当然のように罵った。俺の前でさえ?を責め立てる言葉は止まなかった。それを聞く度に俺は、俺の心からは、感情が薄片となって一枚一枚削ぎ落とされていくようだった。
 あれから何年経ったのだろう。


 ?が姿を消してからしばらくは大騒ぎだった瀞霊廷も、五年、十年と時を重ねていけば事件が起こる前と変わらなくなった。空いてしまった席に俺が座り、副隊長と呼んでいた人を松本と呼ぶようになっただけだ。何も変わらない。恐ろしいくらいに。

 ?は、生きているのだろうか。どこかに身を潜め息を殺しているのだろうか。それともどこかで新しい人生を紡いでいるのか。すべて忘れて。瀞霊廷のことも隊のことも、──俺の、ことも。
 あの日ぽっかり空いた胸の穴に、ただ一つ残ったのは会いたいという気持ちだけだった。裏切られた悲しみも、恨みさえまだ俺は感じられない。でも忘れることなど出来ない。ただもう一度だけ、






(会いたかったと、伝えることさえ)




 





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