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拍手限定ホストパロ連載2




 始まりは、彼氏の浮気だった。





 女子校育ちの私は、だけど決して女の子っぽくなくて、バレンタインデーなんか後輩の女の子からいくつもチョコをもらうような有り様だった。
 嫌だったってわけじゃないけど、そういうことが自然と私を“女の子らしさ”から、遠ざけていった。


 恋愛なんて、自分には無縁のものだと思っていたそんな時、彼に会った。





 ――たまに駅で見かけてた、可愛いなって。良かったら名前教えてくれない?





 それが高二の春。

 夏には付き合い始めていた。

 別れようって言われるだろうなと思った受験期をどうやってか乗り越え、結局彼は家業を継いで、私は大学に進学した。



 ある日彼のマンションに行ったらその前に可愛らしい女の子が立っていて、まあ、彼は本当はあんたなんか云々かんぬん、ありきたりな恨み辛みをぶちまけられた。

 腹が立ったのはその後で、彼がその子をかばうようなことを言ったときだった。



 浮気の一つや二つ、くらいに思ってたけど、あの子の態度には我慢ならなくて文句を言った私に、彼はなんと「…お前さあ、アイツくらい可愛いこと言えねぇの?」と嘲笑うように言ってのけたのだった。





 それで私はホストになろうと思った。





 ――いや、実際は雑用だし、別にモデルとかキャバ嬢でも良かったんだけど。もうやけくそだった。

 とにかく、その元彼をチビらせるくらい見目麗しくなってやろうと思った。元カノがものすごいイケメンになって綺麗なお姉さんを侍らせて来たら、多少はショックでしょう?





 そういう経緯で、今私は女であることを隠してWATERSの内勤をしている。





 勢いで始めたはずがこんなに長く続いているのは、ホストの方々が親しみやすい紳士ばかりで居心地が良いからに他ならない。
 そして、近隣の同業者と同じ商売を同じ仕組みでやっているのにそう思えるのは、WATERSがこの界隈で群を抜いているにも関わらず、都会らしくない暖かい懐の広さを持っているからなんだと思う。



 だから、動機はどうあれ私はここが――「アキ…っ!!」








「…恋次さん、おはようございます」

「え、なにお前、ご機嫌斜め?」





 一人寂しく回想に浸っていたのを邪魔されて、なんとなく挨拶が遅れた。



 ゆるくまとめられた目の醒めるような赤い髪と、これでもかと全身を覆うタトゥー。
 それだけ見たらヤのつく方かと疑ってしまいそうなこの人は、黒崎さんと同じくWATERSのホストの一人、恋次さん。
 見た目とは裏腹に、感情豊かで面倒見が良い。順位を気にする人じゃないから私もこの人の順位は覚えていない。



「グラスやって怪我した、って一護に聞いてよ」
「大げさですよ。怪我なんてしてないです。グラスは、…すみません」



 グラス一つにしたって、みんながお客様のために大切に扱っていた物。
 こればっかりは本当に申し訳なくてうつ向くと、恋次さんが気遣うように背中を撫でてくれた。



「気にすんな。怪我なくて、良かった」



 ああ、今の声、お客様の前で出せばいいのに。

 でもこの人の場合、こういう飾らないところが好きっていうお客が多いから良いのかな。



「恋次さん、いつもの方は?」
「これから来るってよ。まーた職場で何かやらかしたらしい」



 恋次さんの一番長いお客は、バリバリのキャリアウーマン。何度か取り次いだことがあるけど、すごく綺麗な人だった。
 でもとにかく気が強くてよく会社で上司と揉め事を起こしているらしい。


 いつもパワフルな彼女を思い浮かべてから、がしがし頭をかきつつ連絡がないかケータイを確認する恋次さんを見ると、何だか可愛く見えてしまう。
 思わず浮かんだ笑みを目ざとく見つけた恋次さんは、すう、と目を細めて私の顔をのぞき込んできて、


「…何笑ってんだよ」
「いーえ、何でもないです」
「ムカつく野郎だなオイ」
「い…っ、いひゃいれすよ!」


 頬をぐにぐに引っ張ってきた。
 そのままフロアに連れていかれそうになったので、アイスの補充をとりにキッチンへ向かうからと告げ、一人裏に戻る。

 恋次さん、心配してわざわざ裏まで来てくれたのかな。なんだかんだ言って、やっぱり優しい。
 それがたとえ、あくまでも男友達に対する優しさだったとしても。



 私の嘘が気付かれなければいいだけ。

 それだけ。














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