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「・・・・・・・・・・・・赤司君は、いえ皆さんはゲーム等はしないですよね?」
『・・・は?』

素っ頓狂な返事も他所に真白はただ淡々とした態度を変えずに話を続けた。

「いえとにかく聞いて下さいな。
私はRPG等が大好きでして、それもやり込み系というかどんなに雑魚キャラでも最大レベルに上げないと気が済まないんですヨ」
『・・・』
「要はレベル最大萌えなんです、『解析アナリシス』も『診察コンサルト』も『管理マネージメント』もその手段でしか無い。
貴方方と違って何のスキルも持ち合わせていない私にしてみれば他人をマックスまで育てるのが楽しみで楽しみで―――」
「真白さ、」

薄らと三日月型に笑う少女に黒子は思わず台詞を遮ろうと口を開いたが彼女はそんなものでは止まらなかった。

「楽しみで仕方が無かった・・・・

過去形。
過去形で、彼女は最後まで言い切った。

それはそうだろう。
彼女の存在を認識してから今までの間、つまりは現在進行形で育成が好きだと思わせるような描写は無い。
例外で黒子のプレーをいくつかアドバイスしていただけだ。


「けほけほ、・・・後はまあこんな体質ですし、付きっきりで誰かを育てるなんて出来ません。
ご理解頂けましたか?
私はこの通りガラクタ同然の人間なのですヨ、ですから早く帰らせて下さいな」
「赤司君、・・・」
「・・・・・・」


黒神真白。
自他ともに認める虚弱体質。
自分では何も出来無い代わりに他人を限界値までその才能を引き上げるという才能を持つ。
黒子以外誰も知られていないが赤司は内心黒神家が此処数年で力を付けてきたのは真白が何かしたのではないかと思っている。
証拠も確証も何も無いが、それは真実であり事実だったが彼らがそれを知る日は恐らく一生来ないだろう。


「・・・ねえねえ、て言うかさ。
アンタ偉そうな事を言ってるけどホントにそんな凄い力を持ってんの?」
「紫原っち」
「・・・確かに紫原の言う通りだな。
証拠とかねえのかよ黒神?」
「あら黒子君だけでなく赤司君も私の事を信じているのにそれでもダメなんですね・・・まあ人間というのは所詮自分の目で見ないと信じられない生き物ですからネ」
「ボクは信じていますよ」
「知ってますヨ黒子君。
というより貴方は私の特別コースを受けているでしょ、これで信じていないなんて言ったら最後見限りますから」

にこにこといつも通りに笑う幼馴染に黒子は人知れず戦慄する。
えげつない事を平気で言い、更に仕出かしてくる真白。
対応一つ間違えればそれ相応の報復が待っているのは既に知っている。

「黒子っちこの娘(こ)の指導を受けてたんスか!?」
「はい。・・・以前黄瀬君の前で加速するイグナイトパスについて話していたんですがもしかして聞いていなかったんですか?」
「え゛何の話!?」
「仕方ありませんヨ彼はその時黒子君の掌底を喰らってそれどころではありませんでしたし」
「何をやっているのだよ黄瀬」
「だからお前は駄目なんだ」
「うっ緑間っちに赤司っちまで・・・!!」
「紫原君、青峰君。
真白さんを疑っているみたいですが加速するイグナイトパスは元々真白さんが原案です。
改悪・・・改良に付き合ってくれたのも彼女のおかげなんですよ」
「おい今不吉な言葉を言わなかったか!?」
「気の所為です」
「確かに改悪と言ったのだよ」
「気の所為ですよ」
『・・・・・・』

彼の有無を言わさない(言わせない)圧力によりキセキは沈黙する。
唯一いつも通りだったのは言うまでもない、黒神真白ただ一人。

にこにこと貼り付けたような笑顔で、何て事無さ気に笑う。
見た目は本当に清楚なお嬢様。


「・・・そうですネ。
いつもならどうでも良いと言って切り捨てるんですけど今日は出血大サービス。
ちょっとしたパフォーマンスでもしてあげましょうか」
「真白さん体調は大丈夫なんですか?
ボクが言うのも何ですが彼等に其処までしなくても良いかと思いますが」
「黒子後で校舎裏」
「黒子っちヒドイっス!!」
「黄瀬君ハウス」
「酷過ぎっスよおおお!」
「黄瀬ちんうるさーい」
「近所迷惑だっつーの」
「最早今更だろう」


ばっさり切り捨てられた黄瀬をよそに真白達の話はどんどん進んでいく。


「ではまず生贄、ごほんモルモット・・・ではなくどなたか一人パフォーマンスに付き合ってくれませんか?」
「真白さん隠しきれていません」
「ふふ、何の事ですか?」(にこにこ)
「・・・・・・いえ何でもありません」

(今・・・)
(今生贄って言った)
(モルモットって言った)

無邪気な邪気という言葉がある。
一部では知られているが大多数の人間には知られていないだろう。
この場合、その言葉が的確なような気がする、と黒子は何となくそう思った。


「時間が勿体無いですので仕方ありません。
この一連の責任を取って頂くのも兼ねて赤司君お願いします」
「俺か」
「紫原君では大きすぎますし、黄瀬君は大半の女子を敵に回すのが面倒です。
緑間君は純粋ですし青峰君は以下略です」
「黒神表へ出ろ!!」
「誰が純粋だ!!」
「的確だな。納得した」
「赤司ぃいいい!!」
「赤司っち火に油を注がないで!!」

「真白さんそろそろ喜劇は終わりにしませんか」
「そうですね・・・とりあえず赤司君」
「何だ」

此処で。
此処でようやく真白の空気が変わった。
何処にでもいる雰囲気から一転、研ぎ澄まされた刃の如く。

「悲鳴をあげずそのまま動かないで下さいネ?」
「は」

そう短く言葉を放ったのは一体誰だったか。
とん、と小さな音と共に赤司は温もりを感じた。

「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

「真白さんそろそろ離れましょう、赤司君離れて下さい」
「何だこの女、変態か」
「それは真黒君ですヨ」
「は?」
「ああいえ何でも無いです」

私ったらついうっかりを。
此処で本家の名前を出しても誰も知りませんよネ。


「有難う御座います赤司君。
おかげである程度分かりましたよ」
「!?」
「全体的に筋肉量は男子中学生にしては上の方ですね。バランスも良い。
筋肉の質も上々、練習メニューを考えている方はよく考えられていますネ。
ですが肌ツヤから見るに睡眠量がまるで足りていない。
その所為もあるのでしょうかネ?
身長は少しずつですが伸びているのに体重は変わっていない。
栄養管理が疎かになっているというわけでも無いのに。
バスケ部主将になって忙しいのでしょうけど自己修養が少しお粗末になっているようですね」


にこにこと笑う真白を間近で見た赤司は半ば茫然と立ち尽くした。
下心一切無く、ただ純粋に能力を発揮する為に抱き着かれた赤司としては動揺を隠しきれなかった。
緑間はその事に戦慄しながらも赤司の眼前にて掌をひらひらと上下に振る。

「おい赤司しっかりするのだよ!」
「そんな事より流石真白さんですね軽くハグしただけで其処まで見抜くなんて。
真白さん赤司君の身体測定結果や練習メニューなんて知らないのに、相変わらず凄いです」
「何も知らねーのに彼処まで言い当てたのかよ!?
当てずっぽうじゃねえの!?」
「真白さんの事です記憶の中の赤司君と今の赤司君の身長を比較したりして把握していたのでしょう。
真白さんはマネージメントの天才、魔法使いとまで呼ばれたトレーナーですよ」
「マジか!?」
「信じられないのだよ」
「ていうか黒神サンの場合魔法使いというより魔女なんじゃ」
「黄瀬君ハウス」
「ヒドイ!!」


「ハグだけですのでまあ此処までですかネ?
私がこんな体で無ければ、あるいは私が世話焼きな性格であれば、私が『眠れる怠惰』で無ければ。
黒神真白プロデュース、化物マネージメントのコーナーコースを選択を提示させてあげるんですけど」
「何ソレー?」

にこり、と質問を返した紫原に真白は笑いを返す。

「Aコースはありとあらゆる苦痛を全身で経験する。
悪魔も泣き叫ぶようなハードトレーニングでしかも効果と命を保証出来無い。
Bコースは寝て起きたら最強になっている。
この二択ですヨ」
「何でそんな極端なんですか」

真顔でそう突っ込む幼馴染に真白の笑みは更に深みを増した。
そして爆弾発言。


「ちなみに裏メニューは『私と一緒に』寝て起きたら最強になってるというものがあります」
「Aコースでお願いします!!」

彼女と一緒に寝たら最後、文字通り生贄でモルモットになるに違いない。
これまでの人生において黒子が一番戦慄した瞬間だった。

一応これでラスト。
書きたいシーンは書けたので。お粗末様でした。


20140629