Gift | ナノ
!『音楽少女』×『虹色』
!音楽少女デフォルト名:紺野昴
!七星様サイト連載コラボ小説



気が付くと僕は知らない場所に立っていた。澄み切った青空が広がり、野原には色鮮やかな花も咲いている。
洛山高校の図書館にいた筈なのにどうしてこんな場所にいるのか、なんて考えていたら何やら物音が聞こえてその方向に首を向けたら…。

「もうこんな時間になってしまいましたね。
歩いていたらとても間に合わない…」

赤と黒をベースにしたクラッシック系の服装をしたテツヤが懐中時計を見つつ慌ただしく走っていた。
しかも水色の頭には、白い兎の耳が生えていてファンタジーの世界か?なんて思った。

「急がないと安心院さんに怒られてしまいます」

安心院、という言葉が聞こえて僕は居てもたってもいられずテツヤを追い掛け始めた。
テツヤになら追いつけると思っていたが中々追いつけない。

「待てテツヤ。どうしてお前が名前に怒られるんだ…?!」
「見ず知らずの君…いえ、アリスに話をしていたらボクの首が飛ぶので教えません。
それではさようならまた今度会えたら会いましょう」

テツヤは僕に向かって無表情且つ、早口でそう言うと大きな穴に駆け込んだ。
見知っている僕を見ず知らずと言ったことやあんな態度を取るなんていい度胸だと憤慨しそうになったが名前のことを聞かなければ、と思い僕は何の躊躇いもなくテツヤが駆け込んだ穴に飛び込んだ。



穴に飛び込んだ僕はどんどん下の方に落ちていく。
暗い穴の中では椅子やら小さな本棚、ティーカップなどがふわふわ浮いていた。
途中でランプを見付けてスイッチを押すと明るくなり視界がよくなった。

漸く下に足がついて辺りを見渡したら部屋の中にいた。
テツヤは何処に行ったか思考を巡らせていると足元に小さな扉を見付け、試しにドアノブを握って開けようとしたが鍵が掛かっているのか扉は開かなかった。
例え扉が開いても僕の大きさでは通そうもないな…。

「…ん?」

すると何時の間にか僕の横には白いテーブルがあって机の上には鍵と小瓶があった。
手に取った小瓶にはいかにも不健康そうな緑色の液体が入っていて、ラベルには"DRINK ME"と書かれていた。

「"私をお飲み"…?」

小瓶の中の液体を飲めば何かが起きるのか?
そう結論付けたが一旦小瓶をテーブルに戻して次に手に取ったのは鍵は小さな鍵だ。
まさかと思い鍵を扉に差し込んで回してみるとカチリと音がして、ドアノブを握って回すとさっきは開かなかった扉が開いた。

「…賭けてみるか」

テーブルに戻した小瓶を手に取り、コルクを開けて液体を一気に飲み干すと僕の身体はみるみる小さくなった。

「中々ユニークな世界だな…」

でもテツヤを探せるならいいかと妥協して僕は扉の向こうに足を踏み入れた。


扉の向こうの世界は大きな草や花が咲いていた。
普段なら何とも思わないが此処まで大きくなると小さな虫にでもなった気分だ。
気にせずテツヤを探して歩みを進めているとキノコに座って読書をしている真太郎がいた。真太郎もテツヤみたいにファンタジーな衣装に身を包んでいる。

「真太郎。お前もいたのか…」
「む。お前は誰なのだよ」

話し掛けられた真太郎は顔を上げて僕を訝しげに見た。
テツヤといい真太郎といい、どうして二人は僕を知らないのだろうか。
そのことが気になりつつも真太郎にテツヤの行方を知っているか聞きだすことにした。

「真太郎、テツヤを知らないか?」
「…何故そんなことを聞く」
「別にいいだろう」

真太郎は眉を寄せつつも眼鏡のブリッジを上げた。

「アイツに関わると安心院の"アレ"に巻き込まれるからな。
例え知っていても教えん。相手が余所者(アリス)なら尚更だ」

真太郎も名前の名前を口にした。
アレという言葉に引っ掛かりを覚えるが真太郎は僕にテツヤの行方を教えてはくれそうにない。

それよりも…

「どうして僕はこの世界でも真太郎よりも小さいんだ…」

平均身長並みとはいえ、テツヤの含むキセキの中で僕は二番目に小さい。
見下ろされる屈辱感は否めないがこんなファンタジーな世界でも見下ろされるのはどうも納得がいかない。

「何を言っている。一番丁度いい背のサイズは7センチと決まっているのだよ」

僕の考えていることなんて露も知らない真太郎がさも当然のように発した言葉に僕は思わず項垂れた。

「それよりも僕は慣れない大きさで困っているんだ」

こんな小さなサイズになったことなんて一生無い筈だ。
傍にあったキノコに腰かけると真太郎は何かを考え込み、口を開いた。

「ならお前に役立つ話をしてやろう。
片方を食べれば大きくなり、もう片方を食べれば小さくなる。
但し、食べ方には注意するのだよ」
「何の話だ?ちゃんと具体的に…」
「貴様が腰かけているキノコのことだ!」

真太郎は怒鳴って僕の座っているキノコを指差したから真太郎に促されるままにキノコの笠の一部を剥いだ。

「真太郎。コレはどっちを食べたら大きく…」

キノコのことを聞こうとしたが真太郎はいつの間にかいなくなっていた。

仕方なく僕は片方のキノコを食べてみたら木を突き抜けるくらい大きくなった。

「コレは大きすぎる…」

幾ら小さいのが不便だからって大きすぎるのも複雑だ。
何百メートルもは流石に不要だ。
元にも戻ろうともう片方のキノコを食べようとしたが食べたらさっきより小さくなるのではと考えて、食べるのではなく舐めたらまた縮んでしまった。

「今度はさっきよりも大きいな…」

真太郎の言う7センチになったみたいだ。
このキノコは取り敢えずとっておこうと決め、僕は道を歩きながらテツヤを探すことにした。




道を進んでいたら森の中に入っていった。
木には沢山の看板が貼ってあってどっちに進めばいいのか考えていたら…。

「アララ〜?アンタ見掛けないけど…もしかして新しいアリスちん?」
「…敦?」

聞き慣れた声が聞こえて顔を上げたら木の上に紫色とピンクの縞模様の派手な衣装を纏った敦がいた。
衣装に見合った猫耳と尻尾まで生えてる身が中々シュールだな、と思っていたら敦は身軽に木の上から降りて僕をしげしげと見る。
取りあえず僕はテツヤの行方を知っていないか聞いてみることにした。

「敦。テツヤを見掛けなかったか?」
「さぁ?オレは知っているかもしれないし知らないかもしれない」

言葉遊びみたいな答えを出されて少し苛立った。

「どっちなんだ。ハッキリ答えろ」
「だってこの世界の連中は皆イかれてんの。
イかれてんのにハッキリ答えろとか無理だし」
「マトモな奴はいないのか?」
「いないんだからそんなのどうしようもねーじゃん」

呑気に答える敦に僕は頭を押さえた。
この世界の住人はイかれている?そんなまさか。じゃあ名前もイかれているのか?
あり得ないことを考えていたら敦は思い出したような表情を浮かべた。

「ああでも…オレの帽子屋(マッドハッター)なら教えてくれるかもよ」
「帽子屋?」
「そう。お菓子作りが得意な世界で一番愛しいオレの帽子屋さん」

うっとりとした表情を浮かべる敦に何となく帽子屋が誰なのかが分かった。
あの敦にこんなことを言わせられるのはたった一人しかいない。

「テツヤってのを探してんでしょ?案内だけならしようか?」
「…頼む」

敦の申し出を受けた僕は上機嫌な敦と一緒に帽子屋のいる場所を訪れた。



着いた場所は庭みたいで長いテーブルがあった。
テーブルの上には沢山のティーポットやカップ、数えきれないの焼き菓子や軽食の乗った皿が並べられていた。
目を凝らしてみると奥の椅子には長いシルクハットを頭に被り、燕尾服を着た昴が優雅に紅茶を飲んでいた。
敦は一目散に紅茶を飲んでいる名前に飛びついて猫みたいにゴロゴロ喉を鳴らしながら昴の膝上に顔を乗せた。

「君はこの世界の新しい住人さん?それとも余所者(アリス)さん?」

敦の頭を優しく撫でている昴も僕のことを知らなかった。
でも代わりに"アリス"と呼んでいる。
テツヤも真太郎も、敦も僕をアリスと呼んでいたのに何か意味があるのだろうか。

「名前とテツヤを知らないか?」

僕の質問に昴は敦の頭を撫でる手を止めて僕の顔を見た。

「安心院さんはこの国を治める女王様で、白ウサギは女王様の召使だよ」

昴の言葉に耳を疑った。
名前が女王様?似合うような似合わないような…じゃない。
とにかく名前の事が分かった以上、絶対会いに行かなければ。

「どうしたら名前に会えるんだ?」

僕の質問に昴は眉を寄せた。

「招待状も無いのに女王様に会うのは止めた方がいい。
女王様は不思議な"チカラ"を持っている。
逆らったらその"チカラ"で君の存在が消されてしまうよ」

昴の言う"チカラ"というのは名前のスキルのことだろうか。

「余所者(アリス)は女王様に会いたい?」
「勿論だ」

僕の表情を見た昴は帽子を外し、シルクハットの中から白い封筒を取り出して僕に差し出した。

「女王様主催のお茶会の招待状だよ。よければどうぞ」
「昴は行かないのか?」
「愛しいチェシャ猫の相手をしないといけないから行けなくなった」

さも当然のように言った昴に僕はまた頭痛がした。
他人に物事を平気で押し付けるなんて真面目な昴らしくない。
敦の言うように本当にこの世界の住民はイかれているようだ。

「女王様へのお城はこの道を真っ直ぐ進めばいいよ」
「…ああ」

膝に頭を乗せていた敦は何時の間にか昴の首元に腕を伸ばして頬や首筋に何度もキスをしていた。
これ以上此処にいても無駄だと悟り、僕は昴に貰った手紙を握りしめて教えられた道を進んだ。


教えられた道を真っ直ぐに進んでいくと何時の間にか赤と白の薔薇の木が続く道に出て、視線の先には大きな中世ヨーロッパの城がそびえたっていた。

「あの城に名前がいるのか…」

意を決して更に道を進もうとしたら木の陰からトランプを思わせる兵士の服装をした涼太と大輝、さつきが現われて三人は僕に目敏く気付くと驚いた表情を浮かべた。

「アンタ…誰っスか?」
「どう考えても侵入者(アリス)だろ」

警戒している涼太と大輝は腰に携えていた剣を抜こうと柄に手を掛けたがさつきが待って、と声を上げた。

「きーちゃん、大ちゃん。この人(アリス)は"招待状"を持っているよ」
「桃っち。黒子っちがこんな人(アリス)に招待状を送るなんてあり得ないっスよ」

さつきの言葉に黄瀬が首を振っていると僕の手に持っていた招待状を見ていた大輝が口を開いた。

「コイツの招待状は帽子屋に渡したヤツだぜ。
帽子屋が此処にいねーってことは今頃あの化け猫と砂糖が吐き出るくらいイチャついてんだろ」
「なら暫く来れないっスね」
「じゃあ捕まえちゃう?」

三人の意見が一致したらしく、後退ろうとするも時すでに遅し。

「侵入者を捕まえるのが兵隊の仕事っスから悪く思わないで欲しいっス」
「貴方を女王様の所に連れて行くね」
「ま、精々機嫌を損ねんなよ」

反論する前に僕は三人に捕まり、名前の前に連行されるハメになったが名前に会えるのだから良しとしよう。



三人に連れられた場所は薔薇園で、其処にいたのは黒と赤のドレスを着た名前が座っていた。

「安心院。侵入者…」
「名前!此処は何処なんだ。どうして大輝達は僕を知らないんだ!」

大輝の言葉を遮って名前に向かって叫んだら涼太とさつきが目を見開いて慌て始めた。

「ちょ、アンタ女王様を軽々しく名前で呼んじゃ駄目っスよ!」
「そうだよ!女王様に生意気な態度を取ると…」
「僕は構わないよ」

涼太とさつきに対して名前が制止を掛けたら、二人は素直に従った。

「今度のアリスは男の子か。珍しいこともあるんだな…。
君達は下がっていていいよ」

名前は涼太達にそう指示を出すと三人はその場を離れた。
この場には僕と名前の二人だけだ。

「名前。どうしてこの世界の連中は僕をアリスと呼ぶんだ?」

僕と名前以外誰もいないなら一つずつ分からない事を解明すればいい。
そう考えて先ずは今まで会った連中が僕をアリスと呼ぶ理由を聞き出した。

「簡単なことさ。この世界の住人じゃない人間は"アリス"だって決まっている」
「アリス?」
「この世界で唯一"マトモ"な人間。イかれている住民達とは違う"イキモノ"のことさ」

平然な態度を取る名前に少し苛立った。
物事をはぐらかされてしまうのは好きじゃないが、どうしてこんなファンタジーな世界でも名前にはぐらかされてしまうのか。

「何故この世界の人間はイかれている」
「この世界ではあり得ない事が当たり前だからさ。
常識や概念が通用しないし、そんなのつまらないじゃない」

ニコニコ笑う名前に僕は震えた。
名前も同じようにイかれているのかと思うと居た堪れない。

「でも所詮は作られたセカイだ」

そう思っていた時、目を伏せた名前の言葉の意味が分からなかった。

「"夢"だから、だよ。征十郎君」

名前が口元を吊り上げて笑いながら僕の名前を呼ぶと数え切れないトランプが一斉に空から降り注いだ。

「待て名前!それはどういう意味だ…!!」

僕はトランプを振り払って名前に手を伸ばすが届かず、視界が反転して周りが一気に暗くなった。





「…し。赤司」
「…!」

名前を呼ばれて目を開けると其処に名前は居なかったが、代わりにジャージ姿の千尋が僕を見下ろしてた。

「どうして千尋が此処に?」
「お前が居ないから探すように実渕に頼まれたんだよ。
探してみれば図書館で熟睡してるし…」

千尋がブツブツ言っているが、気にせず図書館の時計を見たらもう部活が始まる五分前になっていた。千尋曰く今まで僕は寝ていたらしい。

名前の言うように、さっきまでの出来事は今まで僕の視た夢だったのか?

「でも珍しいな。お前が"不思議の国のアリス"の原作を読むなんて」

千尋の視線の先には英語で綴られた"不思議の国のアリス"の本。
僕はこれを読んでいる内に寝ていたのか…。

「悪いか?」
「いや、意外と思っただけだ」

それ以上何も言わず、千尋は早く着替えて来いよと言って図書館を出て行った。

「夢、か…」

幼い頃、ヒトの視る夢は心を映す鏡と聞いたとこがある。

あの夢は何を暗示しているのだろうか。

  とあるアリスの夢物語
------------------------
サプライズで頂きました、非常に面白くてわくわくしながら読ませて頂きました!
アリスが赤司w他のキャスティングも最高でした!
私も見習わなければと思わせられました、お見事です!(*^^*)
個人的にラストの『虹色』主人公の表情の変化、そして封印されているのかそれとも黒子と一緒のルートに行ったのかとか気になる要素は満載ですけども最終的にどうでも良くなってしまいました(笑
此方こそ宜しくお願いします!

キャスティング
アリス:赤司 白兎:黒子 芋虫:緑間 チェシャ猫:紫原 帽子屋:音楽少女主
トランプ兵:黄瀬、青峰、桃井 ハートの女王:『虹色』主人公

20140307