夜兎in薄桜鬼

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目を覚ましたら辺りは真っ暗でした、なんて何処の三文小説だ。
だが神音は正しくその事実通りに、道に行き倒れていた。
状況把握しようと周囲を見渡すと見慣れた紫の番傘があり、人知れず安堵の息を吐く。

「・・・とりあえず移動した方が良いか。
ていうか私爆発に巻き込まれた筈だけど・・・爆発した跡すら無いなんてどういう事かナ?」

にこにこと笑う神音の姿を見たら全員かの弟に似ていると断言するだろう。
第七師団副団長辺りは胃がきりきりすると言い出しかねない程、何処か純粋な悪意が滲み出ている。

「んー・・・とりあえず此処は地球で間違いないよネ?
嫌だよ星単位の迷子だなんて、神威が知ったらどれだけ笑われるか・・・・・・・・・ん?」


神音は五感が良い。勿論聴覚も嗅覚も。
普段から人外生物との戦いに明け暮れる日々を送っている彼女の耳と鼻は人間より正確に何かを感じ取る。

「・・・血の匂いと、複数の足音」

血が疼く。
より強者と戦いたいと、あの昂揚感をこの身と心に刻みつけたいと。

そんな血に、弟は従い妹は抗った。
では自分は―――?

神音は笑う。嗤う。そんな自分を嘲笑う。くだらないと、嘲り、嘲笑する。

番傘を片手にとん、と跳躍し、珊瑚色の髪を靡かせる。

「私は夜兎。
戦場を駆け巡り、自身の死に場所を、生きていると何より実感させてくれる場所を彷徨い続ける者。
だから―――」

視界には三人の白い髪と浅葱色の羽織が特徴の男と腰が抜けている少年風の少女。
双方の間に神音は音もなく、上から割って入る。
驚愕したのは少女のみで男たちは突如現れた神音にけたけたと狂ったように嗤うだけ。
―――まるで獲物が増えたから、とでも言うように。

対する神音はただ笑うだけ。
己と相手の実力差も把握できないとはちゃんちゃら笑える。
臍で茶が沸かすとはまさにこの事か。

「えっなっ、・・・あ、危ない・・・!」
「―――正義の味方なんて柄じゃ無いけど助っ人するネ。
だから自分が助かる事を第一に考えるヨロシ」

不敵な笑みを浮かべる神音に振り翳される、型も無い滅茶苦茶な剣に小さく悲鳴が漏れる。
彼女はそんな悲鳴を黙殺しつつ振り下ろされる刃を番傘で受け止めず、彼女は徐に刀身を蹴り飛ばす。
夜兎の身体能力は桁違いだ。
それに加え彼女は武人であり戦闘狂の気さえもある。
そんな神音の一撃が刀で持ち堪えられる筈も無く、無残にも木端微塵になった。

―――ありえない筈の、金属が砕ける音がした事に少女は茫然した。

「次はお前らがこうなるアル。勿論、覚悟は出来てるアルな?」


にこにこ。
かの春雨の雷槍とも恐れられた弟と同種の笑顔が、白い髪の男達が見た最期となった。
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