私は奇妙な私設図書館に勤めている。奇妙な点はいつくかあるが、その一つが、ちゃんとたどりつけない時がある、というものだ。
 地図上ではさほど分かりづらい場所に位置してはいないが、いざ目指してみるとすんなりたどりつかない。あるはずの場所になかったり、同じ所を何度も巡ってしまうはめに陥るのだ。
 そのせいでたびたび遅刻することになり、このままではせっかく手に入れた仕事なのに辞めることになるかもと、私は焦った。
「館長はこの図書館にたどりつけなくなることって、ありますか?」
 困り果てた末に、私は館長の力を借りることにした。館長は若く美しい青年なのだが、どんな時にも落ち着いているので、実際はもっと年齢が上なのかもしれなかった。
 私の嘆きを聞くと館長は、小机から瓶を取り出した。瓶には薄桃色の丸い宝石のようなのが詰まっている。
「なんですか、これ。すごくきれい……」
「これを口に含みながら、この館への道をたどるといい。そうしたらすぐにここが見つかるはずだ」
 なんだか物語に出てくる、秘密の場所へたどりつけるアイテムみたいだな、とわくわくしながら、私は翌日、館長の言った通りに試してみた。
 薄桃色の石は、口に含むとほんのり甘い味がした。飴のように溶けていく。飲みこまないように舌で大事にしながら、図書館への道のりを行く。
 すると、毎日あんなに苦労して探し出していたのに、この日は難なく館が目の前に現れた。私は感動し、館長に礼を述べた。すると事もなげに館長は言った。
「君にあげたのは、何の変哲もない飴だ」
「え、魔法のアイテムじゃないんですか?」
「私は何もしないでも、いつもここにたどりつけるよ。君ももっと想像力を持ちなさい。図書館が迎えてくれるから」
 ただの飴だったことに文句を言うと、まあ効果があったんだから良いじゃないかと、館長に笑っていなされた。たしかになぜかその日から、図書館へ通う途中で道に迷うことはなくなったのだった。



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