司書の資格がなくてもかまわないというので、私はその私設図書館の職に応募した。条件はただ、本を愛していることだけ。それは十分満たしていると自負している。
 晴れて書類審査に通り、面接を受けに私は例の図書館に向かった。
 その図書館には実際に行ったことはないが、噂だけは知っていた。とても珍しい本ばかりを集めた館だとか。古い洋館を改築したもので、目当ての本が必ず見つかるとか。それと、行きづらい場所にあるとか。
 住所を見る限り、さほど入り組んだ場所には思えなかった。それでも大事をとって、約束の時間よりだいぶ前に着くよう計算した。
 そのはずなのに、いつまでたっても目的地にたどり着けない。ここだと思ったら違う、この道はさっき通った、同じ場所をぐるぐる回る、かと思えば見たこともない所に出る、を繰り返し、気づけば約束の時刻を大幅に超えていた。
 あきらめかけた時にふと見上げると、目的の洋館があった。何度も確認した場所なのに、なぜ見落としていたのだろう。
 もう面接には通らないだろうな、と思いつつ、せっかくたどり着けたのだから、館長に会っておくだけはしよう、と中へ入った。
 館は奇妙な作りになっていた。扉を開けると細く薄暗い廊下がつづいていて、奥から明かりが漏れている。
 細い通路の脇には変なオブジェや骸骨、知らない植物の鉢が雑然と置かれている。図書館とはとても思えない。
 その印象は明かりのある方へ抜けても変わらなかった。一転して広い部屋に出ると、柔らかなランプの光がそこかしこに灯っている。壁は一面本棚になっており、ぎっしりと本が詰まっている。らせん階段がつづく上方は吹き抜けで、上の方までずっと本棚の壁である。
 圧倒されていると、白いシャツに紺色のベストとスラックスの、容姿端麗な青年が近づいてきた。図書館の利用者かと思ったが、この若い人が館長らしい。
 館長は私に、子供の頃好きだった本を尋ねた。私がある本の題名を即答すると、ではその本を探して持ってきてくださいと言われた。
 一見して棚の中の本はランダムに並んでいるようなので、どう探そうか逡巡していると、棚の隅に光る物があった。手に取ると、まさしく私が探していた本である。
 「どうやら図書館は君を気に入ったようだ」と謎めいたことを呟き、館長はその場で私を採用したのだった。




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