御幸さんと知り合ったのは、お気に入りのワインバーだった。
 御幸さんは落ち着いた初老の男性で、会社役員の職にあるらしい。渡された名刺を見たら、有名な会社の名が記されていたので恐縮する。
 しかし御幸さんはこちらを緊張させない柔らかな雰囲気の人で、私たちはひとしきりワイン談義で盛り上がった。聞くと、御幸さんは自分でもワインを作っているらしい。自分の農園を持ち、そこで仲間内にだけ融通させるワインを作っているとか。会社役員はそんなことまでできるお金と自由さがあるんだな、と私は感服した。
 何度かワインバーで鉢合わせするうちに、私は御幸さんの農園を見学させてもらえることになった。
 農園は車で一時間ほどの郊外にあり、緑豊かな良い所だった。ブドウの世話は人を雇って任せているが、御幸さん自身も頻繁に様子をうかがいに来るらしい。
 御幸さんは自分の好きな赤ワインのみを作っていた。ちょうど実のなる時季で、棚に巻きついた優美な蔓から、色鮮やかなブドウの房が多く垂れていた。青い宝石のような実はつやがあって美しく、おいしいワインになるだろう予感を抱かせた。
 農園のそばにはワインの加工と発酵、貯蔵をする施設が併設されていた。その潤沢な設備を、私はうらやましく思った。私にも資金があれば、思い通りのワインを開発するんだけどなあ。
 私がしきりに感心していたからか、御幸さんはワインの試飲会に招待してくれた。この農園で醸造されたワインを、御幸さんの親しい人のみにふるまうパーティーが今度開かれるらしい。そんな身内だけの集まりに私が招かれるなんてと恐れ入りつつ、ありがたく招待を受けることにした。
 パーティーの当日、農園には十人ほどの紳士淑女が集まった。私などは場違いなのではと萎縮したが、皆優しく接してくれる。
 とてもおいしいワインがふるまわれたのに、さらにメインの品物が出てくるという。わくわくして待っていると、皆が私に注目する。
 はてどうしたのだろうと訝しんでいると、「ではまず私から」と言い、御幸さんが私の肩に噛みついた。
 血を吸われている。そう思った時にはもう力が入らなくなっていた。皆が口々に呟いているのが聞こえる。御幸のワインも十分代わりになるけれど、やはり本当の血にはかなわないね。しかも今回は若い女だ、一飲みするだけでも腹が満たされるだろう。……
 彼らが今日目当てにしていた「ワイン」は、私の血液のことだった。



[*prev] [next#]



back


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -