「しまった、服を取り込むのを忘れてた!」
 重たくなった蒸気の雲を見上げて少年が叫んだ。洗濯屋のアイロンから出る蒸気は、たいてい小さな雨雲を作り出すのだ。うるうると水をたっぷり含んだ雲を気にしながら、少年と少女は物干し竿に吊るされた大量の服をいそいで取り込んだ。すべての服を作業場に収め終えるとすぐに、大粒の雨が屋根を叩き始めた。
 少年は少女に、洗濯物の取り込みを手伝わせたことを詫びた。少女が少年がアイロンをかけた夜の服の仕上がりが良いことに感心しながら、かまわない、と答えた。
 雨を吐き出すにつれて、蒸気の雲は縮んでいくようだった。雨に混じって何か小さな光る物がたくさん落ちてきた。少年はその粒を拾い上げてまじまじと観察した。それは金色の金平糖のようなものだった。
「星のかけらだわ、それ」
「星?」
「そう。星を生む雲が作れるなんて、熟練の洗濯屋でもなかなかできることではないわ。きみ、けっこうすごい腕してるのね」
 少年は曖昧にうなずいた。師匠のハリじいからは、アイロンの蒸気が雨雲になるというのは聞いていたが、その雲が星をも生むとは知らなかったのだ。
 少女は雨のあがった地面にかがみこみ、散らばっている星のかけらを拾い集めた。
「それ、どうするの」
 少女が星を拾うのを手伝いながら、少年がたずねた。
「空に縫い付ける人に渡すの。夜の服と一緒に」
 星って縫い付けるものなんだ、と少年は驚いた。もう見習いではなくなったのに、まだ知らないことだらけだ。
 金色の星に混ざって、金色の針が落ちていた。少年が拾い上げたそれを見て、少女が驚いた声を上げた。
「これ、お針子さんの針だわ」
「きみの針じゃないの?」
「わたしのとは違う。わたしのは銀色の針だから。これ、星を縫い付けるお針子さんの針だと思う。星と一緒に降ってきたんだわ」
 どうして、新しく生まれた星とともに針子の針が降ってきたと少女が考えたのか、少年には理解できなかったが、それでも、同じくらいの年なのに自分よりずっと物知りだな、と少女を敬い、また自分を恥ずかしく思った。
「その針、返してあげた方がいいと思う。ちょうどわたしも夜の服を届けに行くから、一緒に行きましょう」
「行くって、どこへ」
「夜に決まってるじゃない」
 夜って、時間じゃなくて場所なんだ、と少年はまた戸惑った。
「でもぼく、夜への行き方が分からない」
「わたしについてきて」
 そう言うと少女は夜の服と星のかけらを抱え、作業場の奥にある休憩所へ向かった。少年も金色の針を大事に握りしめ、少女の後をついて歩いた。

(続)





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