「悲しいのを全部忘れられるようなこと……って」
「乗りたいって言ってたろ」
人気のないクディッチ競技場にて、箒を片手に首をかしげるドラコ。彼の表情が不意ににやりと意地悪くなる。
「もしかして、何か別のことでも期待したか?」
ナマエの顔がかあっと赤らむ。
「だって、ド、ドラコが、変な言い方するから……です」
「!」
否定されるものと思っていたドラコは、真っ赤になって俯くナマエのカウンターパンチにつられて赤くなった。
余裕ぶってクールに「何を想像したんだ?」なんてことは聞けるわけがない。というか、いっそのこと期待に沿ってやりたい。勢い余って少し身を乗り出したところで、ナマエがあっと声を上げた。
「ドラコ、フィオレが箒むしってます!」
「コラ駄目だやめろ!フィオレ!」
いつもこれだ。
ドラコはうんざりとため息をついた。
「ぱぁ?」
「………はぁ」
それも、この愛らしい顔で見つめられてしまえば吹き飛んでしまうわけだけれど。
ドラコはふっと笑みを溢して、自分のローブと鞄を地面に置いた。
「ナマエ、フィオレ。おいで」
「ドラコ……あの、実はわたし」
「飛ぶのが下手なんだろ?」
「うっ、」
ドラコの言葉にナマエは目に見えて落ち込んだ。ドラコは慌てて「でもこういうのは、コツをつかめば誰でもできるものだから」と付け足した。
考えたらずでものを口にするのは止めようというのが今学期のドラコの密かな目標である。
「それに今飛ばすのは僕だ。スリザリン現役シーカーの腕が信用できないか?」
そう告げると、ナマエはようやく顔をほころばせた。ドラコにならって鞄を地面に置き、フィオレと共に箒の近くに寄る。
「ど、どうしたらいいですか?」
「そうだな」
ドラコは少し考えるふうに黙り、おもむろに自分のベルトを外し始めた。
「これで君とフィオレを繋いでくれ。少し大きめのものだから、君らがぴったりくっつけば回るだろう」
ナマエはドラコの言われた通り、ベルトを腰に回し、抱えたフィオレの前で結んだ。そして促されるままドラコの後ろにまたがる。
「ナマエ、僕にしっかり掴まって。フィオレ、落ちるなよ」
二人に声をかけたドラコは、地面を蹴ってゆっくりと空へ上昇した。
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