そこからの作業は順調、というよりも、なるようになった。

フィオレは鉛筆、クレヨンを使ってナマエの顔をそれはそれはダイナミックに描いたし、ついでに僕と、絵本の熊の王子まで描いて見せた。

「すごいぞフィオレ、お前は将来画家になれる」
「親バカだな、マルフォイ」

ドラコは首を伸ばして隣のマッドとジャックのキャンバスを覗いた。

「フン、フィオレのほうが上手い」
「それはどうかな」
「大体グレンジャーの髪はもっと爆発してるだろ、いたっ!脛を蹴るなグレンジャー!!」
「あーまーぁ!」
「マルフォイ暴れるな。フィオレが怒ってる」
「フン!お前にフィオレの気持ちが分かるもんか!」

ドラコが自分のキャンバスに視線を戻すと、絵の中のドラコの頭からは紫色の花が咲いていた。
「……………怒ってるのか?フィオレ」
「みー!ふぃ、おー」
振り返ったフィオレは、笑顔でドラコの鼻に紫のクレヨンを押し当てた。文字通り花のような愛らしさに、ドラコはきゅんと胸に手を当てた。

「ドラコ?」
「あ、すまないナマエ。こっちに夢中になってて」
「いいんですよ!絵の方は順調ですか?」
「ああ。こいつは画伯だ」

真顔で告げるドラコに、ナマエもくすりと笑みを深めた。

「手順によると、背景を塗ったらおしまいだそうですよ?」
「よし、フィオレ、もう一息だ」
「ぃあー!」
「あれが使いたいのか?」

フィオレが手を伸ばしたのは絵筆だった。ドラコはそれをフィオレに渡してやりつつ、自分の中の古い記憶が甦るのを感じていた。

「ドラコ、使い方は」
「知ってる」

絵の具の並んでいるケースを引き寄せたドラコ。

「昔、……父上と一度だけ絵を描いたことがある」
「ドラコのお父さんと……?」
「ああ」


どうしてうちにその絵の具があったのか。
なぜ父上と絵を描くことになったのか。
思い出せることはほとんどない。
……ただ、

「僕は欲張って、自分の好きな色を全て混ぜてしまったんだ。そうすれば綺麗な色になると思ったんだろうな。……まあ、結果は、分かるだろ?
真っ黒になったパレットを見て、ひどく落胆した」
「ぱぁ?」

フィオレは紫色のチューブを握りながら、ドラコを見上げる。その表情は心なしか心配そうだ。フィオレの額を撫でながら、ドラコは腕を伸ばして白いチューブを手に取った。

「お前は紫が好きなんだな、フィオレ」
「ぱー、ぁ!ぁい!」
「僕も好きだよ」

今の僕なら、きっと同じことはしない。


「ナマエ、君は何色がいいと思う」

好きなものは混ぜるんじゃなくて残しておけばいい。大切に。その理由を僕はもう知っているんだ。


(いい加減二人だけの世界に入るのやめてほしいわね)
(ジャックに目の毒だ)

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