「ドラコ」
ドラコはカッターをフィオレから離れたところに置き直しているところだった。ナマエは頭を使って言葉を選ぶ。
「木でできた六角形の、細長い棒を探してください」
「…これか?」
ナマエは嬉しくなって頷く。
ドラコが手にしたのは紛れもなく鉛筆だった。
「今度はそれを削るための、小さな箱を探してください。それがぴったり入る穴があります」
「……これだ!」
今度は鉛筆削りまで探し当てたドラコ。
「ナマエすごいわ!」とハーマイオニーが感心した声を上げた。ドラコもまた得意気になって、手にとって鉛筆をくるくる回し始める。
シャリ、シャリ、シャリ、ポキッ
「……折れた」
「力を入れすぎなのかもしれません…もう一回」
中に詰まった芯を取り出して、再び鉛筆を回すドラコ。
シャリ、シャリ、ポキッ
「……もう一度やる」
シャリ、シャリ、パキッ
「……フィオレ、やってみるか?」
「あーう?」
シャリ、パキペキッペキッ「折りすぎだ!」
「箱の方を回せばいいんじゃないか?」
澄ました顔でドラコにアドバイスをするマッドは、ドラコが遠くへやったカッターナイフですでに鉛筆を削り始めている。
「フン………、」
言われた通り鉛筆削りの方を回し始めたドラコだが、芯は無情にも再び折れてしまった。
「ドラコ…」
目に見えて蓄積されていくドラコのフラストレーションを感じ、ナマエはそっと腕を伸ばす。
「あ、…触れた」
触れないのは本当に画材だけらしい。
ドラコの腕に触れ、ナマエは微笑んだ。
「焦らなくていいです。ゆっくり、優しくやってみてください」
ドラコはナマエに触れられた場所から、そっと体中の苛々が抜けていくのを感じた。
頷いて、丁寧に、折れないように気を付けながら鉛筆を回す。
「……このくらいか?」
「はい!すごいですよ、ドラコ」
他の奴に言われれば馬鹿にしてるのかと凄んでやるところだが、ナマエは少しの曇りもない顔でそんなことを言ってくる。
「何てことないさ」
間違ってももう二度とこんな行為をすることはないだろう。……一人では。
ただ、彼女がこんなに嬉しそうにする理由を察せないほど、僕は間抜けでもない。
(君が、そんなふうに笑うなら)
「……待たせたなフィオレ。
ママを喜ばせる手助けをしてくれるか?」
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