「何だ、眠いのか?」
「フィオレ、まだテストは始まったばかりですよ」
そう言いつつナマエも小さな欠伸を漏らす。二人の間に座るフィオレはうとうとと目をこすっていた。
「……仕方ないな」
ドラコはフィオレを抱え、胡座をかいた膝の中に落とすと、ナマエの肩を引き寄せた。

「時間が来たら起こすから、寝ていいぞ」
「えっ、そんな、大丈夫ですよ」
「遠慮なんてするな。ほら、フィオレを見習うといい」
既にすやすや寝息をたてているフィオレ。ナマエは困ったように眉を下ろした。

「……じゃあ、少しだけ」

ナマエはドラコの肩に頭を乗せた。自分でそうするように言ったものの、ドラコは鼻腔をかすめるいい香りや、頬に触れる柔らかな髪の感覚に、早くもやり場のない気持ちを抱いていた。
(ここは中庭だ。あの不愉快なトラップが飛び出てこない今は、もしかしてチャンスじゃ)

「ドラコ」
「っ、……何だ」

一瞬心でも見透かされたのではないかと焦ったドラコだったが、それは無用な心配だった。

「わたしの子守唄、覚えていてくれたんですね」

それは、ドラコがフィオレを呼びかける手段として用いた方法であった。狐の鳴き声ではあったが、確かに耳に慣れたその音程にフィオレは近寄ってきたのだった。

「……君にまで届いてたとはね」
「私の母が作ってくれた子守唄なんです、あれは」
「母上が…?」
「はい。」
ナマエはうとうとと瞬きして、頷いた。

「わたしのために作ってくれた、優しい、愛情のこもった、わたしの大好きな子守唄なんです」

微笑んだナマエの手を握って、ドラコは言った。

「……僕も好きだ」
うれしい、そう言って寝息をたてはじめたナマエ。このつかの間のまどろみがいとおしく、ドラコもゆっくりと目を閉じる。


君の大切なものを大切にしたいだなんて、僕らしくなくて誰にも言えやしない。



(ダンブルドア先生に言われて探しに来たけど……ねえ、ロン)
(これは……起こせないね、どうしようかハリー)

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