新年とは素敵だ。なぜって全てに切り替えがきくから。例えば去年失恋したとして、今年は良い恋しようという気になる。例えば失業して、今年こそはいい仕事に就こうという気になる。私もそんな感じ。今年こそは成し遂げたい事があった。

というわけで、今年の出だしを確認すべく西神社のおみくじを引きに行く事を決意した。寒いけど。

――ガチャ

家を出た瞬間、同時に隣の部屋のドアも開かれた。
出てきたのは恋クマ、じゃない、濃い隈がチャームポイントな医大生、トラファルガー・ローだ。


「何で正月早々アンタに合わなきゃいけないの」
「俺の台詞だ」
「あっそ。じゃあね」
「ああ」
「……何でついてくんのよ!」
「ついてくる?はっ…自意識過剰が過ぎるぞ」
「なに」
「俺はこれから参拝に行く。お前について来たわけじゃねぇ」
「ちなみに東?」
「西」
「東行ってくんない」
「わざわざ遠い方に行くやつの気がしれねぇ。お前がいけ」
「東神社、今年は餅配るらしいよ」
「へえ」
「行けよ!」
「お前がいけ」
「あたしは毎年西神社なの。決めてんの。」
「俺はあそこのおみくじを引くためにこのクソ寒い中外出してんだよ。お前の我が儘に付き合ってられるか」
「くそ、動機が丸被り…」
「何だお前もか」
「嫌そうに言うな。こっちのがやだわバカ」
「ブス」
「ヒゲ」

こうして私達は罵り合いながら西神社に向かった。




「うわ・・・すごい混んでる。もはや帰りたい」
「早く並ばねぇと更に混むぞ」

お参りの列に並んだ私とロー。
私が何をお願いしようかと悩んでいる間、隣の変態は着物のお姉さん達のうなじばかり観察していた。神聖な場所でこんなことしてるこいつには何か天罰がくだるといい。

先に順番が回ってきたローは5円玉を何枚か賽銭箱に投げ入れ、静かに手を合わせている。
(黙ってれば、ふつうなのに)
本当は普通以上の評価なんだろうけどムカつくから言わない。
黙って順番を譲ったロー。
私も小銭を投げ入れて目を閉じた。

お願いしたい事はいくつかあるけど、やはりこれだけは、叶えたかった。――どうか今年こそ
「えらく真剣だな」
「!」
「一つ言っとくが、胸と色気のあるうなじはどう頑張っても」
「どうか今年こそ隣人の変態が撲滅しますように」
ローの脛に蹴りを入れてから早継ぎに願って、パンパン手を叩いた。ああ、もう最悪。こっちがせっかく真面目なお願いをしかけていたのに。
今日はおみくじ引いてさっさと帰ろう。

と、思っていたのにまたもローに先を越された。
心の中で畜生と悪態を吐いてから自分の分も買う。よーく考えて選ばなきゃね!1分ほど悩んでようやく引いたおみくじ。よくよくみれば「おみくじ」の「じ」の部分のインクがハゲていた。テンションがちょっぴり下がる。
まあいいか。
それを開きかけた時、横から伸びてきた手がそれを取り上げた。

「ああ!!」
「代わりに見てやる」
「ちょ、ざけんな!」
「凶だったらショック死するだろ。ワンクッションだ」

そんなふざけたことをぬかしながらピラリとおみくじを開いたロー。
奴はチッと舌打つと私に紙を返してきた。

「…わ、大吉!」
「つまらねぇ」
「やったー!」

今まで下がりに下がっていたテンションはふと太としたその字によってポンと跳ね上がる。ここのおみくじはやっぱりすごいパワーを秘めているらしい。

「で?ローのは?」
「……小吉」
「ぶふー!ビミョー!」
「黙れ」
「へへーん。あたし吟味したもんねっ」

文字がハゲかかってたからってなんだい!要は中身だ!
さっさとおみくじを木に結びつけ始めたローを尻目に、にやにやしながら紙を裏返して、暫く停止。
「・・・?」

アレ?「じ」がハゲてない。
なんで!でもさっき見た時は確かにカッスカスだったのに…――――

「!」

急に騒ぎ始めた心臓に落ち着けと念じる。
(待て、待て)
早とちりの勘違いは後のテンションを大きく左右するんだから。私はそっとローの結んでいるおみくじを見た。

掠れた「じ」がそこにあった。



「何してんだお前」
「・・・あつい」
「ハァ?」
「あつい、よ!」
「真冬だぞ。・・・マジで赤ぇな」
「熱、かも。もう帰ろ」
「結んでかねェのか?」
「・・・・・・―――いい」


さすがに、ずるいよ


「あ…あたし、も、もう一回お願い事してくる!」
「ハァ?熱は?」
「いい」
「いいって何だよ。面倒くせぇ」
「帰ってていいよ」
「黙れ早く行って来い」
「っ!さ、さき帰ってろし!すぐ済むけど!」


(どうか今年こそ、ローと仲良くなれますように・・・!)

海賊:トラファルガー・ロー
 
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