*陸上競技の没




ちちち、と遠くで鳥の囀りが聞こえる。飛び立っていく彼らを追い掛けるように空へと視線を向けると、抜けるような蒼が広がっていた。そのまばゆさに目を細めながら、イドルフリートは溜息のような笑みを溢した。

──嗚呼、

「どうかしたかい?」

そんな彼の様子に気付いたらしく、耳元でそう囁かれたのと同時に腕の拘束が強まって、いやがおうにも意識と目線を引き戻される。
ゆっくりと戻した視線の先には赤の王子。そしてその肩越しには、呆然とした様子のコルテスが、窺うように此方を見つめていた。

──嗚呼、

頭上から、鳥達の楽しそうな歌声が聞こえる。風に乗って流れていくメロディは至極穏やかなのに、それを運んでいる風は酷く冷たく彼らの間を吹き抜けていく。
イドルフリートは静かに目蓋を閉じると、口元だけで笑みを形作って再度空を仰いだ。逆光だからだろうか、蒼の中を自由に泳ぎ回る鳥達が、妙に輝いて見える。

──嗚呼、

「…イ、イド?目がいってるぞ…」
「本当にどうしたんだい、イドル」

イドルフリートは言葉の代わりに二人ににこりと微笑みを返すと、心中で小さく呟いた。
──逃げ出したい、と。












「……ええと、」

どれ程の間そうしていただろうか。時間の硬直を解くかのように白々としたその静寂を破ったのは、戸惑いを帯びたコルテスの言葉だった。「どちらさんで?」
王子を横目で見遣りながらそう訊ねたコルテスの目線は気まずそうに下がっており、明らかな困惑が窺える。然し、それも当然といえば当然である。如何に彼が優秀な探検家と謂えども、部下探しの最中に、その対象が見知らぬ人間──それも男に抱き締められている所に遭遇する等、どうして想像出来ようか。
況してや、自尊心の高いイドルフリートのことである。他人からの必要以上の干渉を嫌う彼が、借りてきた猫のように男の腕の中に収まっているというのは、俄かには信じ難い事実であった。









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展開が上手くいかなかったので没


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