囚人連鎖

竪琴番人+α








仮初めの楽園、囚われたのは――。








"『――綺麗な音色』

ぽろん、細く靱かな指先が悪戯に弦を弾く度に奏でられる美しいそれに、恍惚とした様子で溜息を漏らす彼女の方が余程綺麗だと、指先の動作はそのままに詩人は思った。

艶やかな銀色の美しい髪に、煌めく宝石のような緋色の大きな瞳と、それを縁取る長い睫毛。
穢れを知らぬ雪のように白い肌には、此方が触れてしまう事を躊躇う程で。
ぷっくりとした唇はまるで紅を施したかのように赤く、白く美しい肌によく映えた。

『貴方は、本当に竪琴が御上手なのね』

そう微笑って言った銀髪の少女は正に花そのもので、少なからず残留していた感情の欠片が内側から胸を突き刺し、罪悪感と共に痛みを齎す。
それをごまかすように薄く微笑みを浮かべると、音を紡ぐ事を止め、体躯ごと少女に向き直った。

『御褒めに与り光栄です。しかしながら、貴女の歌声もまた、美麗かと』

にこり、静かに優しく微笑んだ竪琴の詩人は銀髪の少女に引けを取らぬ美しさで、その優しさの中に哀愁の色を潜ませた何とも形容しがたい微笑に、少女は紅く染まった頬を隠すように被っていた赤色の頭巾を深く被り直した。

『…私の歌は歌ではないわ。一種の呪いのようなものだもの』

俯いて頭巾を握り締める少女の声は掠れ、頭巾を握る白く細い美しい指もまた、声同様に震えていた。

その指を包み込むように自らの掌で覆いながら、詩人は微笑みをそのままに、柔らかな口調で少女に語り掛ける。

『貴女の麗しい歌声で紡がれる歌が呪いならば、それはさぞや素敵な呪いなのでしょうね』

是非掛かってみたいものです、そう言って朗らかに笑う詩人に少女は驚いたように目を見開いたけれど、直ぐに嬉しそうに見開いた目を細めて、くすりと微笑った。

『…そんな事を言ってくれるのは貴方だけよ、オルフェウス』
『ラフレンツェの歌声は、本当に素晴らしいですから』

花が咲き誇るかのような微笑みを浮かべる少女――ラフレンツェの頭を優しく撫でてやりながら、竪琴の詩人オルフェウスもまた、彼女と同様に微笑んだ。"
























ぱたん、と、乾いた本の音が閑静な室内に響き渡る。
薄暗いその部屋に存在するには異様な程に場違いな雰囲気を纏った少女は満足気に微笑むと、読んでいた本を大切そうに抱え、そっと傍らに置いた。

「…あ!おかえりなさい、お父様っ」

突然、扉の方を向いたかと思うと、その真っ白な少女は顔を綻ばせながら傷んだ床が悲鳴を上げるのも気にせず、扉の元へと駆け寄った。

「お父様、お父様のくれたごほんね、とってもすてきだったの!」

にこにこと愛らしく微笑いながら誰に言うでもなく呟いた少女の言葉は会話を楽しむそれで、まるでそこには存在ない"誰か"に語り掛けているようでもあった。

「きっと、"らくえん"ではみんなこんなふうにあいをうたうのね!」

楽しげに微笑む少女は、きっと気付いてはいないのだろう。
否、気付かない、振りをしているのかも識れない。

傍らに横たわる、干からびたその屍体に。

「ねぇ、お父様。"らくえん"のおはなしを、きかせて?」












埃っぽい机上に置かれたその古びた本は再び開かれることはなく、詠み手のいない物語もまた、進むことなく鎖されたまま。







「ねぇ、お父様――」











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昔書いたやつ
2、3年前のかな?
読みにくい上に独り善がり^O^


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