滑稽な祈りを貴方へ

竪琴








私は、独りになる事をきっと――、何より畏れていたのです。








周囲を見渡せば厭でも視界に映るそれらから目を背けても、私を取り囲むようにして散らばっているそれらは決してそれを赦してはくれない。
背けたその先に先程と同様の物を見付けて堪らず手で覆った隻眼は、きっと憐れな迄に歪んでしまっている事だろう。

戦場の真ん中で自ら視覚を絶つような真似をするなど、双璧の片割れシリウスに知れたら一体何と言われる事だろう。

(馬鹿、死ぬ気か、何やってんだ、きっと、そんなところでしょうね。)

焦りに顔を染め、慌てながら此方に走り寄って来て、背に庇うように剣を構える様が容易に想像出来て、知らず知らずのうちに口許から微笑みが零れる。

或いは、我等が大将紫眼の狼に知れたら。

(きっと、問答無用でひっぱたかれるか、それこそ、殺されてしまうかも識れませんね。)

今度は怒鳴り散らしながら暴力を振るいつつも、美しい紫眼に心配の色を映す将軍の姿がこれまた容易に想像出来て、小さく吹き出した。

嗚呼、奴隷軍に加わり竪琴の代わりに剣を手にした事がもう随分と昔の事のように感じられる。
失われた彼女の為に、奪われた苦しみの為にと剣を振るっていた頃が懐かしい。

勿論憎悪も悲哀も健在で、決して消える事もなければ癒える事もない。
しかし、彼女の為だけにと振るっていた剣は、いつしか我らが英雄の為に。
英雄の為にと振るっていた剣は同志の為に、奴隷の為にと、次第にその姿を変貌していった。

復讐の為の道具でしかなかった筈なのに、気が付いてみると家族のような情愛が溢れている。
憧憬の念はそのままに、親愛の情が加算されていく。

中でも奴隷軍を率いる若き将軍アメティストスと、自分と同様にその側近、双璧のシリウスへの想いは別格であった。

まるで兄弟に抱くかのようなその情に初めのうちは戸惑っていたが、それも本当に当初の間だけで、今ではもうすっかり気心知れた仲。喧嘩もするし衝突もする、しかし互いに心から笑い合える、それこそ、本当の兄弟のようなもの。
けれど気心が知れたと云っても、互いの詳細はあまり知らない。
過去や事情、経緯など様々な事を飲み込んで、それでも私たちは兄弟だった。

確かに、兄弟だったのだ。

(嗚呼、閣下…、シリウス……)










どうか御無事で、そう願って指を組んではみたけれど、何だか酷く滑稽に思えたので、静かに瞳を閉じる事で落ち着いた。


















それは、彼が扉を開く、少し前の御噺。









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昔書いたやつその2
確か奴隷部隊の仲の良さが書きたかった……んだよ、ね?
当時のわたしわからん/(^O^)\


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