剣道部で先輩×後輩なはなし

高杉×沖田






「沖田」

放課後、所属している剣道部の稽古も終わり、汗と防具の不必要なコラボレーションにより悪臭を放っている胴着からさっさと解放されようと部室へ向かう途中、不意に声を掛けられた。
声の方へと顔を向けると、立っていたのは顔が良いと評判の先輩で。と云っても、うちの剣道部は何故だか面が良い奴ばかりが揃っているから、何も評判が良いのは先輩だけではないのだけれど。しかし先輩はその中でもトップクラスに入っていらっしゃる方で。

漆黒の艶やかな髪の隙間から覗くは、切れ長の鋭い瞳、高い鼻に形の良い唇。
思わず溜息を吐いてしまう程に整った顔立ちのその人は、耳に心地良いテノールで今一度俺の名を呼んだ。

「沖田」
「…何ですかィ高杉先輩」

極力顔を見ないように視線を下方にさ迷わせていると、視界に黒いものが現れた。何だろうと思うまでもなく、それは袴で。少し顔を上げて上方をちらりと覗き見遣ると、矢張りと云うか何と云うか、そこに在ったのは高杉先輩の綺麗な綺麗な顔。
詰まる所、これらが意味する事は、高杉先輩が俺の方へと自ら進んで来てくれたと、云う事で。
先輩の方から俺を呼ぶなんて事は滅多にありゃしないし、ましてや普段何事にも億劫な先輩が、俺なんぞに話掛けに来るだなんて。
ポーカーフェイスを決め込んだりなんかしているが、いつにない先輩の行動に内心は大パニックだったり。
だって、俺はこの恰好良い先輩にどうしてだか惚れてしまっているのだから。まあ、どうせ報われない片想いの叶わない恋なんだけどねィ。

「…お前、応じ技苦手?」
「え、あ、はい」

唐突に話を振られ、何が何だか解らないまま思わず勢いだけで頷いてしまった。

応じ技――基、返し技。
相手が打ってきたものを返す技で、技名を挙げるならば返し胴や甲手返し面など。
確かに面や甲手、甲手面など基本的な技は大丈夫なのだが、いかんせん応じ技が上手く決められない。今日の稽古でも土方さんに頼んで教えて貰っていたのだが、あまり進歩がないまま終わってしまったものだから、俺はこの先果たして修得出来るのだろうかと密かに悩んでいたりする。

でも何でそんなこと聞いてくるのだろう。
幼馴染みの土方さんや近藤さん、なんだかんだ云って世話好きな坂田先輩ならばいざ知らず、高杉先輩が教えて下さるなんて事は天地がひっくり返ったとしても有り得ないだろうから、

(弄りの種…とか…?)

高杉先輩がドSらしいと云う事は周りから嫌と云う程聞かされているので知っているが、あの人は基本的に親しい人ではないとそういった事はしない、と思う。
だから、先輩と親しいどころかまともに話した事もない俺なんかが相手にされる筈がないのだ。

(…なんか、)

自分の言葉にずきりとした痛みが胸中に広がり、情けないやら虚しいやら。
そんな俺の心境なんぞ知る由もなく(というか知られたら困るが)、先輩は何故だか神妙な表情で顎に手を添えて何やら思案している御様子。

嗚呼やっぱり恰好良いなー、なんて。
思いながら見詰めていると、不意に先輩が口角を上げてにやりと笑んだ。

「俺が教えてやるよ」

そして彼はあろうことか、世界壊滅的威力を持つ、超ド級の爆弾を俺に投下して下さった。










しん、と静まり返った道場に竹刀の乾いた音が響き渡る。

夕陽に照らされて紅く染まった道場は何だか神秘的で、まるで夢の中にでも居るかのような、何とも不思議な気分になってくる。いや、まあ高杉先輩が俺に技を教えてくれるって事がもう夢みたいなんだけどさ。

ちらり、と目前に立っている先輩を隠し見る。竹刀の点検をしているのだろう、弦の張りを確かめたり、中結の位置を確認したり、その表情は真剣だ。
唯竹刀を持って立っているだけなのに、どうしてこんなに絵になるのだろう。
ぼんやりとそんな事を思いながら、どきどきと好き勝手に暴走し出した心臓をごまかすように竹刀を握る手に力を込める。

「…どうした?」

聞こえた声に慌てて我に返ると、お互いの鼻と鼻とが触れるか触れないかのギリギリの距離に先輩の顔が在って。俺の顔を、先輩の綺麗な顔が、覗き込んで。鋭くて綺麗な隻眼が、俺を、射抜い、て。

――し、にそ…

どきどきなんて可愛らしいもんではなく、壊れるんじゃねぇかってくらい暴れまくる心臓の音がどうか先輩に聞こえませんようにと願いながら、竹刀に込める力をより一層強くした。

「な、なんでもありやせん」

だから、どうぞ続けて下さいと先を促すと、先輩は眉を寄せたままの変な顔で此方を一瞬ちらりと見たが、直ぐに視線を外して溜息を吐いた。その溜息の意味を知る由もない俺としては、何かやらかしたんじゃないかと内心どきどきだ。
不安に駆られながら先輩を上目越しに見遣ると、それに気付いたらしい先輩が口を開いた。






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やっぱり続かない^^
多分二年くらい前のやつ


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