赤イド

続「リアリズムの逃亡」の没






それから、赤の王子のあまりの勢いに圧されて流されているうちに、何時の間にやら街中から連れ出されてしまっていたことにイドルフリートが気が付いたのは、長い長い回想を終えた後だった。

慌てて周囲に目を向けると、そこに広がっていたのは先程まで目にしていた人工的な建物とは正反対の、草木が茂る平野だった。

――連れ出されたことに気付けなかった。
自分の犯した失態が信じられず、イドルフリートは自分自身に驚愕し――、愕然とした。

(まさか)

役職上、イドルフリートは気配や空気といったものに敏感だった。
例え深い眠りの中に居ようとも、気配を察すれば直ぐに目を覚ましたし、空気が変われば確認せずとも解る筈だった。況してや、街中から平野等、常の彼ならば見るまでもないというのに。

どうやら、赤の王子の情熱的な告白が余程堪えたらしい。
内心で小さく舌打ちをして、未だ握られていた手を振り払うと、低く言葉を吐き捨てた。

「……用件は何かな、王子様」


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