*静雄×正臣




少し長くなった前髪を耳に掛ければ、遮りが消えて幾分か視界がクリアになる。その状態のまま、隣を歩く愛しい人をちらりと盗み見ると目が合って、そのまま穏やかに微笑み掛けられた。嗚呼、やばい。
視界が開けた所為なのか、やけに眩しく映るその微笑に頬が熱くなるのを感じる。それだけじゃない、心拍数も馬鹿みたいに上昇してる。如何しよう、絶対否確実に顔が赤い自信がある。
でも、それ以上に、

「…紀田?」
「へ、あ、っはい!」
「大丈夫か?なんかぼーっとしてっけど」

いけない。
折角のデートなのに俺としたことが考え事に没頭して静雄さんを蔑ろにするなんて。慌てて弁解する為口を開いたら、余計な言葉まで一緒に零れ落ちてしまった。

「だ、大丈夫です!…ただ、その、」
「ん?」
「…静雄さんが隣に居るのが、なんだか、まだ信じられなくて…その、幸せ過ぎて如何しよう、なーんて…」

はは、と誤魔化す様に笑ってはみたものの、残念なことに乾いたそれは全くと云って良い程効果が身受けられなかった。羞恥の余り頭を抱えたくなる衝動を何とか抑え込んで、然し胸中ではしっかりと大声で叫ぶ。

(うわああああ俺何言ってんだよ!はずいはずい静雄さん固まっちゃってるし如何すんだよ俺の馬鹿!)

些か、否かなりパニックに陥って居ると、不意に頭に軽度の重みを感じて、おそるおそる静雄さんを見上げる。静雄さんは外方を向いて、あー、とか、くそ、とか唸りながら俺の頭を少々乱暴に撫でた。心なしか、その頬に赤みが差している気がする。耳も、赤い気がするのは俺の気の所為か、願望か。

「…静雄、さん?」
「だああっ、んで手前はんな可愛いんだよ!」

自棄糞の様にそう叫んで、今一度俺の頭を乱暴に撫で上げると、そのまま俺の手を引いて歩き出してしまう。俺はと云うと、未だ静雄さんに言われた言葉を理解出来ておらず、硬直してしまっていた。これじゃまるで、先刻とまるっきり逆じゃあないか。

繋がれた手は何時の間にか貝殻繋ぎ――又は恋人繋ぎとも云う――に成って居て、俺は恥ずかしさの余り俯いた。そんな俺の様子を知ってか知らずか、繋いだ手に力を込められて、思わず赤面してしまう。

(ててて、て、が…。ていうか静雄さん、先刻俺のこと、か、可愛い、って……!)

漸く先程言われた言葉が脳に浸透して来て、その意味を理解した瞬間、只でさえ熱かった顔が更に熱を持った気がした。そうして、それが気の所為等ではないということを、静雄さんの言葉で理解する。

「顔真っ赤だぞ。やっぱどっか悪ィのか?」

心配そうに眉を寄せて顔を覗き込んで来る静雄さんに大丈夫です!と叫ぶも、中々信じてくれず、本当かよ?と疑いの眼差しを向けて来る。それに必死扱いて頷く俺に何を思ったか、除ろに掛けていたサングラスを外すと、そのままバーテン服の胸ポケットへと仕舞い込んでしまった。その意図が解らず疑問符を浮かべていると、前髪を掻き上げられ、静雄さんの綺麗な顔が段々と近付いてくるじゃあないか!
驚愕して反射的に目を瞑ってしまった俺の額に、そのまま静雄さんの額が宛てられて、まあ簡単に云うとおでここっつんこ状態なわけだが、もう何ていうか、心臓が壊れそう。
ばくばくいう心臓を落ち着け様と手を繋いでいない方の手で左胸を押さえ付けながら、小さく静雄さんの名前を呼ぶと、静雄さんは安心した様に「熱はねぇみたいだな」と小さく笑った。
それに胸がきゅうと締め付けられて、嗚呼、これがときめくってことなんだろうな、とぼんやりと思った。
同時に、如何しようもない程の愛しさが込み上げて来て、思わず静雄さんに抱き付いたら、突然のことにも関わらず、しっかりと力強く受け止めて、抱き返してくれた。

嬉しくて幸せで、その気持ちをそのまま口に乗せて伝えたら、穏やかな目をして「俺もだ」と言って優しいキスをくれた。







終わりの見えない恋をしよう







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