猫田東組×安藤
*にょた(その1その2)
*ちょっと注意






何とか買い出しを終えて帰路につくと、先程の犬養の言葉が思い出されて、今更ながら背筋に悪寒が奔った。
あんな、色々な意味で危険な人間と本当に対決出来るのだろうか――不安になるのと同時に、グラスホッパーの今後が少し心配になった。

然し、犬養の様な気持ち悪さは無かったにしろ、学校で似たようなやりとりがあったことを思い出し、憂鬱な気分になった。

(本当に散々だったよなあ…)














体躯に異変が起こった初日は、状況判断や準備があるだろうと云う潤也の言葉で休みはしたが、流石に幾ら女になったからと云ってそう何日も学校を休む訳には行かず、取り敢えず制服に着替えてみたものの、矢張りと云うか、一昨日迄は確かにぴったりだった制服がだぼついてぶかぶかになっていた。

他に替えがない為仕方なく袖を折り曲げて、それから少々時期外れだとは思うがベストを重ね着する。下着やら何やらは昨日のうちに詩織ちゃんに手伝って貰って揃えたので、ワイシャツが透けてばれると云う事態はない筈だが、念の為。
身長は余り変わっていなかったのでズボンの丈はぴったりだったが、それでもぶかぶかなのには変わりはなく、少々みっともないが致し方ない。

着替え終えて自室から出ると、俺の様子を見に来たらしい潤也と廊下で鉢合わせた。体躯が女になってからと云うもの、若干潤也の様子が可笑しい。
今だって俺の姿を見た途端、赤面して物凄い勢いで顔を逸らしてしまった。

「あっ、き、着替えられたみたいで良かったよ!」
「ちょっとみっともないけどな」
「そんなことない!かっ、可愛いよ!!」

力強く否定の言葉を口にした潤也は、然し言った後でしまった、と云う様な顔をして慌てて口元を手で覆った。そんな弟の不可思議な行動を疑問に思いながら、取り敢えず褒めてくれたことに礼を言うと、再び顔を赤くして背けてしまった。









潤也と別れて教室へと向かう途中、何だかやけに視線を感じて、矢張り制服が合ってないのだろうかと不安になるも、登校してしまったものは仕方がないと、挫けそうになる心を何とか奮い立たせて教室の扉に手を掛ける。

――と、その直前で後ろからいきなり肩を叩かれて、思わず身が跳ねた。驚いて振り返ると、視界が捉えたのは片手を上げた級友の姿で。

「…島」
「よう!聞いてくれ安藤、俺は昨日考えたんだが――って、あれ?御前、そんなに痩せてたか?」
「!!き、気の所為じゃないか?それより、何を考えたんだ?」
「そうだった、貧乳と巨乳のメリットとデメリットについてなんだが――」

例の如く乳のことを嬉々として語りだした島に、気付かれない様ほっと溜息を吐く。上手く誤魔化せたみたいだ。

それにしても、一目見るだけで解る程に俺の変化は顕著なのだろうか。弟である潤也なら未だしも、真逆島にまで指摘されるとは夢にも思わなかった。

(一層打ち明けてしまおうか…。でも、如何説明する?)

考えろ、考えろ――

「御早う御座居ます、安藤さん」
「っ、アンダーソン…御早う」

(何だ、何で先刻から皆して不意討ち食らわせて来るんだ!?)

思わず上ずった声が出そうになって、寸でのところで何とか抑えて挨拶を返す。咄嗟に浮かべた笑顔は然し、ぎこちなく歪んでいるに違いない。

「あれ、安藤さん…」

(また…!如何しよう、如何誤魔化せば…)

島は上手く誤魔化せたが、アンダーソンはそう上手くいくとは思えない。来るべき質問を如何かわそうかと思案していると、とても良い笑顔を浮かべたアンダーソンが、爽やかに言い放った。

「今日はまた、一段とキュートですね!」
「…………あ、ありが、とう…?」

予想外の言葉に、身構えていた体躯から力が抜けて脱力する。流石、ハーフは言うことが違う等とずれたことを考えていると、アンダーソンに同意する様に島が口を開いた。

「そうなんだよなー、何か今日の安藤、何時にも増して女顔に拍車が掛かってるっていうか、まああれだな、一言で言うと、」
「「――エロい」」

だな!、ですね!とそれぞれがそれぞれに頷き合いながら言葉をはもらせた級友二人に呆然としながら、言われた単語を頭の中で反芻して――、赤面した。

「な、な、なに言っ…!?」

そんな俺の様子を見て感嘆の声を上げる級友たちの顔を殴りたい衝動に駆られた丁度その時、タイミング良く担任が現れてその場は何とか収まったのだけれど。

何とか授業を乗り越えて――体育がなかったのは不幸中の幸いだった――さてとっとと帰宅しようと帰り支度を整えていると、またもや後ろから肩を叩かれた。本当に、今日これで何度目だろうか。
そう思いながら後ろを振り向くと、予想に反して立っていたのは島でもアンダーソンでも潤也でもなく、新聞部の副部長であり、ひとつ上の先輩に充たる、満智子さんだった。

「如何したんですか、今日は部活休みじゃ…」
「良いから、ちょっと付き合いなさい」

言うが否や、俺の返答も聞かずに手を引いて歩きだしてしまった満智子さんに、半ば引き摺られる様に連れていかれたのは新聞部の部室だった。「ほら、」と促されるまま部室内へと歩を進めると、何故だか其処には部員である潤也の他に、島やアンダーソン、詩織ちゃんと云った、明らかに部員ではない人物の姿があった。

「…ええ、と…?」

状況が理解出来なくて助けを求める様に潤也へと視線を向けると、潤也は酷く申し訳なさそうな顔でごめん、とアイコンタクトで伝えてきた。そして、それを受けて、何となく理解した。

――ばれたのだ、と。









「本当に女の子なの?」

満智子さんに詰め寄られ、問い詰められる様にストレートにそう尋ねられて、その余りの剣幕に言葉に思わず俯いてしまう。

(如何すれば良い、如何すれば切り抜けら)

「っひゃ、あ!?」
「あら、本当だったのね」

突然の刺激から無意識に出た甲高い悲鳴に慌てて口を塞いで顔を上げると、何時の間に背後に回ったのか、満智子さんが背中に抱き付く形で俺の胸を触っていた。

「ま、満智子さん、何し、て…っ!」
「確認よ、確認。そうねぇ、C位かしら」

楽しげに述べる満智子さんに本気で危機感を抱き、離してもらおうと口を開いた途端、それまで触れていただけだった手がいきなり動き出し――、あろうことか、胸を揉み始めた。
完全に油断していた上に丁度抗議の声を上げるところだった為、露骨に霰もない声を出してしまい、余りの羞恥に涙が滲んできた。やばい、死にたい。

「ほ、ほんとにやめ、っあ!」
「…可愛いわね安藤くん」

本当にもう勘弁して欲しい。
救いを求めて周囲を見渡すも、潤也は顔を両手で覆っている――と云っても指の隙間から此方を覗き見てはいるのだが――し、島はこれでもないかと云う程に目を見開いて只凝視しているだけで、とても助けてくれるとは思えなかった。アンダーソンに至っては顔を背けて此方を見てもいない。
絶望に打ちひしがれながら、最後の望みとばかりに残りのひとり、詩織ちゃんへと視線を移す。

詩織ちゃんはそれまで唖然とした様子で見詰めていたのだが、俺と目が合うと可愛らしい笑顔でにこり、と笑った。

(助けてくれる…?)

その愛らしい微笑みを携えたまま此方へとやってくると、俺の頬をするりと撫でて、一言。

「お兄さん、私とも遊びましょう!」

――俺を、奈落の底に突き落とす言葉を吐いたのだった。

「…え、ちょ、詩織、ちゃ…?」
「だってお兄さんったらほんとに可愛いんですもん!」
「これはもう犯罪の域よねぇ」
「…満智子さ、え、え?」

顔は確かに笑っているのに、只成らぬオーラを醸し出す二人に頭の中で警鐘が鳴り響く。然し、満智子さんにしっかりと体躯をホールドされ、目の前の詩織ちゃんにはがっしりと両腕を掴まれている状況では、逃げ出すことは疎か、その束縛を解くことすら叶わない。

「…ひ、」
「安藤くん…」
「お兄さん…」










「「――覚悟」」
















「……っ」

あの時の恐怖を思い出して、身震いする。本当に怖かったのに、満智子さんと詩織ちゃんは終始良い笑顔だし男連中は助けてくれないしで、最悪なことこの上なかった。

(…今日の夕飯は潤也の嫌いなものにしてやる)

せめてもの腹いせにとそんなことを思いつつ、もう目前にある自宅――正確には、其処に居るであろう弟――を睨み付けた。











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いや、その、すいませんでした。
でも一言だけ言わせて下さい。

すげぇ楽しかった*´∀`*







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