犬養×安藤
これの続き
*にょた






なんやかんやで、性別が反転してから数日が経った。
と云っても違和感は拭えないし、別にやましいことなど何もないのだけれど、着替えやトイレ、入浴といった『如何しても体躯を見なければならない行為』をするのは流石に気が引けてしまう。

潤也には言うべきか否か散々悩んだ末、一応知らせておくことにした。同じ家で生活している以上何時かはばれるだろうし、隠し通す自信もなかった。

先ず信じてもらえないだろうと思いながら打ち明けたのだけど、予想に反して潤也はすんなり受け入れてくれた。流石に驚いてはいたようだったが、何処か納得した様子で俺の言葉を信じてくれた弟に、少し涙が出そうになったのは秘密だ。
潤也曰く、「どんなになっても兄貴は兄貴」なんだそうだ。…本当に良い弟を持った。

一応学校などは男として生活しているが、家の中や買い物に出掛けるとき等は潤也の希望で女物を着ていたりする。折角だから楽しんじゃえ!とのことで、相変わらずの前向き思考に呆れを通り越して笑ってしまった。
序でに云ってしまうと、今も女物だったりする。これまた潤也の希望で、如何にも、と云った風の可愛らしい淡いピンクの膝丈のワンピースと云う、普通に生活していれば恐らく一生着ることはなかったであろう代物を身に纏っている。

初めのうちは、体躯は女でも顔には其れ程変化が見受けられなかったので絶対似合わないと言って反抗していたのだが、大丈夫ときっぱり断言する弟に加え、その彼女――下着の件で色々お世話になった――までもがそれに同意して、取り敢えず一回袖を通すだけでも、と食い下がるものだから、渋々着替えてみたのだけれど。
二人の称賛をバックに、気乗りしないまま鏡を覗けば、其処に居たのは俺ではなく――、黒髪の、何処から如何見ても女の子にしか見えない誰かが映っていて、その余りの女の子っぷりに自分だと気付かなかった位だ。

そんなこんなで外見上の違和感はないにしろ、生まれてこの方スカートなんてものを履いたことがない――有ったらかなり問題だ――俺にとって、この、歩く度にふわふわ揺れる布の感触だとか、足に感じる形容し難い妙な感覚――敢えて言葉にするならスースーする、だろうか――だとか、兎に角心境的な違和感は拭えない。
世の女性達はこんな動きにくい格好で生活しているのだと考えると、只只恐れ入るばかりだ。

そんなことを考えながら、慣れない格好の為に何時もよりもゆっくりとした足取りでスーパーへの道程を歩いていく。
赤く染まった空を眺めながら、随分と日が短くなったなあ等としみじみ思っていたところ、不意に声を掛けられた。

「ねぇ君、今ひとり?」

聞き覚えのない声に訝しみながら後ろを振り返れば、其処にあったのは矢張りと云うか当然と云うか見知らぬ顔で、そのことに疑問を覚えながら「はあ…」と気のない返事をする。

「うっわ、超可愛いね!ねぇねぇ、ひとりだったらさ、俺とちょっと遊ばない?」
「…えー、と……?」

これは若しかしなくとも――、俗に謂う、ナンパと呼ばれるものではなかろうか。

(え、ちょ、如何したら良いんだ!?取り敢えず断って、でも何て言えば、ていうか何で俺なんだ…!)

予想外の事態に混乱して固まっていたのを了承と受け取ったのか、「じゃ、行こっか」と言いながら肩に手を回してくる男に慌てて抵抗を試みるも、男女の力の差なのか、全く振りほどくことが出来ない。必死な俺とは裏腹に、相手は余裕綽々と云った表情を浮かべていて、その何をやっても無駄だと云わんばかりの顔に、恐怖や焦燥よりも悔しさが込み上げてきた。

(…っ、こんな体躯じゃなかったらこんな奴、)

「離して、下さい」
「ほら、暴れんなって。ちょっと遊ぶだけだから、ね!」
「…好い加減に……っ」
「離してあげなよ」

しろ、そう続く筈だった言葉は、突如として響いた燐とした声に、音になる前に消えていった。

「嫌がってるじゃないか」
「うっせぇな、誰だてめ――っ!」

急に言葉に詰まった男を不審に思い、声のした方へと顔を向けて――、瞠目した。
白銀の長髪に、黒飛蝗の象徴たる制服を纏った、毅然とした態度の青年。――犬養、だ。

(何でこんなとこに…)

自警団グラスホッパーを束ね、若くしてリーダーを勤める彼が、何故こんな所に居るのだろう。
驚きと疑問で支配された頭は何時の間にやら考察を開始していた様で、「大丈夫かい?」と掛けられた声で我に返ったときには先程の男は消えていて、代わりに目の前に犬養の顔があった。そして、気付いた。

これは、少々まずい状況なのではないかと云うことに。

(き、気付かれた…?否でも顔見られてないし大丈夫だよ、な…?取り敢えず御礼だけ言ってさっさと逃げよう、そうしよう)

「あ、有り難う御座居ます…それでは!」
「……ちょっと待って」

颯爽とその場を立ち去ろうと踵を返した瞬間、突然制止の言葉と共に腕を掴まれて、身動きが出来なくなってしまった。冷汗が伝うのを背中に感じながら、只じっと犬養の動きを待つ。

「――安藤くん、だよね?」
「っ、ひ、人違いです!」
「いや。安藤くんだよ。僕が君を他人と間違える筈がない」

爽やか過ぎて最早胡散臭くさえ感じる笑顔でそう言い切る犬養に、何だか反抗する気も失せて溜息を吐く。

「…何で解ったんですか、俺だって」
「言ったろう。君を他人と間違える筈がないって。まあ、強いて言えば、そうだね…、項、かな」
「……え、何て?」
「だから、項。あんな色っぽい項の持ち主なんてそう居ないからね。君を助けたのだって、項が安藤くんみたいだな、と思ったからに他ならないし。でも、まさか女の子になってるとは思わなかった。まあ、安藤くんは男でも女でも可愛いことには変わりはないけれど」

穏やかな微笑みはそのままに、信じ難い言葉の数々を吐き出した目の前の男に固まっていると、突然真面目な顔をして俺に向き直り――、言った。
恐らく否確実に、犬養と云う人間のイメージを壊すには十分過ぎる程の威力を持った言の葉を。

「で、大きさはどの位あるんだい?」












俺が脱兎の如くその場から逃げたのは、言うまでもないだろう。








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副作用で女体化第二弾。
犬養が只の変態で実にすみません。
いやでも安藤くんの項はエロいと思う(真顔)







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