ある日気が付いたら私の周りがいつもと同じ様で同じでなくなっていた。何を言っているか分からないと思うがそうとしか言えないのだ。
 似ているのだけど、どこか違う。
 昨日までは確かに同じだったのに、朝起きてから何かが違うのだ。間違い探しかよというレベルの些細な違いではあるが、違いは違いだ。とにかく何かが違うのだ。でもはっきりと言葉にするには小さすぎて、家族は特には何の違和感も感じていないようだし、他の友人たちにLINEで連絡をしてみても普通にしていた。何も変わらない日常。いつもと同じそれ。だけど、やはり何かが違う、ような気がするのだ。
 けれど何が違うのかも満足に言葉にできない私は、喉に小骨が刺さったままでいるような気がしながらも、私以外の全員がそれを感じていないのならばそれは間違いなく気のせいであると自分のことを納得させて、いつものように学校へと足を運んだのである。

 そしたら学校に服部平次がいた。
 服部平次だ。どう見ても服部平次である。三次元にしたらこんな感じだろうなって感じの服部平次がいた。コスプレではない。肌も髪も作り物でないことくらい見れば分かる。服部平次だ。間違いなく服部平次である。どの角度から見てもめちゃくちゃ服部平次だ。私の目の前には、服部平次がいる。


「なんでやねん」
「いやなにがやねん」


 思わず飛び出た私の呟きへの流れるようなつっこみに、流石本場と息を呑む。洗練された鋭いつっこみは一日や二日で身に付くようなものではない。思わず感心しながら目の前の服部平次を見上げると、向こうからは変なものを見る目で見られた。
 しかしそんなことに感心している場合ではない。朝からの違和感の正体にようやく思い当たった私は、え〜と言いながら脱力した。そういえば朝のニュースで東都がどうの探偵がどうのと言っていた気がする。そこか〜〜〜と思いながら自分の机に懐くと、木の香りが微かにした。


「え〜…何……コナンじゃん………」
「は?なんで苗字がくど、コナンのこと知っとんねん。俺あいつのこと話した覚えないで。どっからその名前出してきてん、なんや怪しいのぉ」
「ちょ、うるさい…服部すごいうるさい……」
「うるさいて!なんやお前!」


 ため息交じりにそう言うと、服部平次は過剰なまでに反応してきた。腹から出ているよく響く声は、遠くにいればいいのだろうが近くにいるとひたすらにうるさい。元気か。こっちは突然漫画のキャラクターが目の前に現れたことに驚き頭を悩ませているというのに、ぺらぺらとよく回る口で服部平次は絡んでくる。悩む隙も与えないぞということだろうか。
 こうしてみると普通の男子高校生にしか見えないが、頭の回転が速いのは確かだ。ありえる。十分にありえる。だってコナンだ。気まぐれで入った喫茶店で気まぐれにおにぎりセットを頼んだだけで変だなと怪しまれる可能性もある。まさかコナンと言っただけで何かしらの容疑者に仕立て上げられてしまう可能性が…?やめろよ〜隣の席地獄かよ〜。
 一気に面倒くさくなって盛大にため息を吐く。もともと何かを考えるのは得意ではないのだ。ありのままに周りに流されるままに生きるがモットー、座右の銘は長い物には巻かれろの私はそのまま思考を放棄するとより一層ぐでぐでした。


「……なんや、今日調子悪いんか?あんま無理せんと保健室行きや」
「おお…うん…せやな……」
「その似非関西弁やめーや」


 どうやら心配してくれているようで、大人げなかったと八つ当たりを止めて素直に頷けばまた突っ込みが入る。なんだこいつ。いちいち突っ込まないと生きていけないのか。しかしまあ心配してくれるのはありがたい。間違いなく今日が初対面のはずなのだが、服部平次の中ではそこそこ言葉を交わすクラスメイト的立ち位置なのかもしれない。

 まあ、正直漫画の中にいるだなんて困惑するし、しかもコナンだから巻き込まれたくない気持ちでいっぱいではあるんだけど、コナンと違って服部自体は多分そう事件に出くわしてはいない、と、思う。思いたい。そうであることを前提として話す。
 多分今まで生きてきたところと何かが違うのだ。何かが変わっている。それは間違いない。けどそれで今のところ特に困ってることがないんだよね。だって家族いるし、仲のいい友人たちだっているし、好きなアイドルもそのままだし漫画やゲームだってちゃんと今までと同じなのだ。ただ同じ学校に服部平次がいるだけで。
 なら別に、まあ、いっかという話である。私に何かしらの被害がないなら昨日までと何ら変わりはない。長い人生だ、まあこういうこともあるのだろう。
 そんなことよりも今はもっと重要なことがあるのだ。


「服部、私頭痛が痛くてしにそうだから英語の宿題見せて」
「その雑なボケどうにかならへんの?」
「質の良いボケが欲しいなら払うもん払ってもらわないと」
「何様やねん。そろそろどつくで」


 そう言いながらもぽいとノートを投げてよこす服部にさんきゅーと軽く礼を返して該当箇所を開く。存外綺麗な字で書かれたそれを自分のノートに書き写しながら、やっぱり何かが変わってしまっても全然問題ないなと思った。むしろ宿題が見せてもらえるならば願ったり叶ったりだ。
 そんなことを考えているうちに、私は段々何かが変わったことすら忘れて行くのだけど、特に気にせず私は流れに身を任せた。別に、大した問題ではないので。



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