生かされている幼い狼[1] 暗雲が立ち込める空の下。怯えるように隠れて震える小さな人影が、繁華街のビルの隙間から見え隠れしている。 真っ暗な空からは雨粒が勢いよく零れ始め、防ぐ術を持たないその細い肩を濡らしていく。 彼は今、家出の真っ最中である。 馴染めない環境から逃げ出そうと決意したまではいいが、何処へ行けばいいのかという答えを持っていない故に、雨宿りさえできずにいるのだ。 家出とは言っても、まったくの他人しか居ない場所から飛び出しただけ。 本当の家族は何処に行ってしまったのかさえわからない。 幼い彼がその事情を説明されたとしても、理解できるのかどうかさえわからない。 物心つくかつかないかの頃に貰われて行った場所には、沢山の屈強な大人の男たちが犇めいていて。その環境のおかげで、彼は同年代の子供たちからどしてか距離を置かれてしまっていた。 自分を見る余所の子供たちの目は、怯えているのだという気持ちをこちらに伝えていた。 彼はそれが堪らなく寂しかった。そして不思議で仕方がなかったのだ。 べつに乱暴をされるわけでも無く、可愛がってもらえないわけでは無い。が、家族だとは思えない。 家族では無いのに何故、彼らと生活を共にしているのだろうか。 本当の家族に会いたい。会ってみたい。その気持ちが日々膨らみ続け、度々こうして家出を繰り返す。 もうすぐまた、望まぬ迎えが来るだろう。 居場所がバレてしまわないうちに、もっと遠くへ逃げなければ。 どんなに抵抗しても、小さな身体を抱えられてしまっては逃れる事はできなくなるのだから。 大粒の雨は容赦無く彼の全身を濡らし、もはや下着までずぶ濡れだ。 立ち上がり歩を進めればグチュグチュと鈍い水音が不快に響く。 濡れて顔に張り付く黒髪はこれ以上無い程に雨水を含んで、大粒の水滴を次々に滴らせている。 視界が悪いのは仕方ないとして。濡れすぎて少し寒いのも仕方ないとして。 さてどの方向へ向かえばいいのか。 (!!) ビルの隙間を抜け出し、路地を挟んだ向こう側へ、横断歩道を渡ろうとしたその時だった。 彼を抱きかかえ、元いた場所へ連れ戻す太い腕。 「見つかった!?」そう思い暴れたが、返ってきた反応は、思っていたものと違っていた。 en aparte'*top← +α← Home← |