女隊士
「……なんだってんでィ」
沖田は星原の涙を見てそう呟くと、不意に立ち上がりプイッと部屋から出ていってしまう。
星原はすっと涙を拭い、沖田が出ていった方を見て困ったように笑った。
「嫌われたかな、これは……」
「んなこたぁねーだろ。まぁ事情が事情だからな……。総悟も、わかってはいるんだろーが……悪いな」
「あぁそうだぞ!総悟は昔からミツバ殿が大好きだったが、同じくらい玲殿のことも慕っていたんだから嫌うわけないだろう!」
「そうだといいんだけど……ありがとうね」
目を伏せる星原を少し焦りながら、励ます土方と近藤。その姿に星原はふふふっと笑い、微笑んだ。その仕草はまるで、昔のミツバのようで二人は目を見張る。
「あ、あ、そうだ!こ、これなんだが!」
近藤はおもむろにバタバタと風呂敷を取り出して言う。
「え、なんだこれ?」
「隊服……だと思う、とっつあんからだから」
「とっつあん……?あ、もしかして栗子ちゃんの御父上のことか?」
「そ、そうそう。松平の」
星原は不思議そうな顔で風呂敷を受けとり中身を覗きこむが、松平からのものだと知ると納得したように笑う。
「隊士に紹介する前に、着替えてもらわないと……」
近藤がそう呟くと、土方は廊下を見て声をかける。
「あー、山崎ィそこにいるか?」
「あ、は、はい!なんでしょうか、副長」
ずっとそこにいたらしい山崎が少し怯え気味に、襖を開けて入ってくる。
「俺の部屋の隣の、空き部屋にコイツ案内してやれ」
「わ、わかりました!えっと星原さん?こちらです」
「玲でかまわないよ。ありがとう山崎さん」
星原は山崎に連れられて、局長室を後にした。
「ここです。俺外にいるから着替えたら言ってね」
「ありがとう」
廊下を歩き、ある部屋の前で立ち止まった。星原は山崎にお礼をいい、部屋に入る。そして近藤から受け取った風呂敷を広げた。
「…………片栗虎さんの趣味か?」
そこには、隊長格の隊服と丈が長い上着、やけに短い丈のスカート、白のニーハイソックス、黒のブーツ、そして新調された小太刀が入っていた。
星原は着物の帯に手をかけると、しゅるりと解き、着ていたものをすべて畳の上に落とす。躊躇もなくその隊服に袖を通し、腰に小太刀を携えた。髪も簪を引き抜いて、フワッと下ろす。
「んっ!よし」
ざっと着物の片付けをし、部屋から出ると山崎がびっくりしたような顔で目をパチパチしている。
「お待たせしました……ってどうしたんだ?」
「あ、え、いや、あの、お、お似合いですねっ!と、とりあえずこちらですっ!」
星原が声をかけると、山崎は顔を真っ赤にしながらわたわたと広間に案内する。
「来た来た……って、ちょ、え、玲殿おおお!?な、なにその格好っ!?お父さんは許しませんんんんっ!」
「…………っ」
広間に入ると、近藤に呼ばれて集まっていた大勢の隊士が、こちらを振り向き、真っ赤な顔をして固まった。近藤と土方ですら、なぜか驚いた顔をする。そして近藤は星原に飛び付かんばかりに叫び、土方に至っては頬を染めつつ、視線を外す。
「いや、別にもらったもの着ただけなんだけど……。というかお父さんじゃないし!あとなんでトシまでそんな反応してんの!?なんか変か、これ?」
星原は意味がわからないという表情で自分の格好を見る。すると後ろから声が降ってきた。
「……似合いすぎてんでさァ、玲姉。そんなにじっくりみるんじゃねーや、土方コノヤロー」
「見てねぇよ!」
振り向くと、沖田が不機嫌そうに星原のことを見ていた。
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