風呂



「んー……総に見張ってもらうか……」

どうしても汗を流したい星原は、沖田に見張りを頼み、屯所の風呂を使わせてもらおうと思った。しかし、彼女は沖田の部屋の位置を知らない。

「あー……こんなことなら聞いとけばよかった……」
「何をですかィ」
「総の部屋の位置……ってびっくりした」
「全然驚いてないじゃないですかィ。台詞棒読みでさァ」

自分の部屋の前で呟く星原の耳に、かったるそうな声が届く。振り向くと、風呂上がりなのか頬を紅潮させた沖田が立っていた。

「ちょうどよかった。風呂使いたいんだ、外を見張っといてくれないか?」

緩く着た着流しのせいか、男の色気が増しているように見える沖田に、意識もせず星原はさらっと頼む。

「……分かりやした。あとでご褒美はしっかりいただきやすから」

沖田は湯冷めしちまうじゃねーですかィと少しだけ唇を尖らせたが、すぐ悪戯っ子のように口角をあげた。
そして風呂へ星原を案内する。

「誰もいねーか、ちょっと見てきやす」
「あ、ありがとう」

確認しに沖田が脱衣所の中に入っていく。ガラガラッと扉の開ける音もする。きっちり浴室まで見ているようだ。
ふいにドカンドカンと何かの音がする。

「玲姉ー。誰もいないんで、入れやすよー」

しばらくして、中から沖田の呼ぶ声がした。

「じゃあ俺、出入口で見張っときやすんで。何かあったら呼んでくだせェ」

脱衣所の中に入っていくと、沖田が肌色と紅で染まった人のような何かを引きずって、浴室から出てきた所だった。星原が呆気に取られていると、そのまま沖田は脱衣所も出ていく。

「なんか変なものが見えた……気がしたんだが……」

一体なんだったんだ……と目を擦る星原。もちろん床は真っ赤である。

「まぁいいか……」

気にしたら負けだなと呟き、するすると隊服を脱ぐ。
彼女の背中には、その真っ白な肌に似合わない刀傷の痕が、一筋、斜めに残っていた。

「あー、気持ち良い……」

星原は浴室に入ると、さっさと身体と髪を洗い、湯船に浸かって幸せそうに目を閉じる。
湯加減はちょうどよかったが、浴室の壁が一部粉砕していたため、外気が少し入ってきていた。

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