墓参り
一人の女が石段を登っていく。
片手に美しい花束を抱え、小梅の小紋を身に纏った彼女は、少し俯きながら石畳を歩き、ある場所で立ち止まった。
そこは彼女の親友の墓。
病弱な親友は結婚を間近に、その生涯を閉じた。その死に目にも葬式にも、女は親友に会うことができなかった。のちに訃報を聞いても、本当に親友は亡くなったのかと信じられなかった。
しかし、墓石に掘られた「沖田ミツバ之墓」の文字が親友の死を突きつける。
「……ミツバ、本当なのか」
一滴の涙がその白い頬をつたう。
それを拭い、顔にかかる艶やかな黒髪を手で荒っぽく払うと、彼女はふっと微笑んだ。そしてそこへしゃがむとその墓へ花束を供える。
「やっぱり君には仏花よりこっちのほうがいいな……綺麗な、花束のほうが」
手を静かに合わせ、目を閉じる。
彼女は少しの間そうしていたが、そっと立ち上がり「また来るよ」と微笑むと、長い黒髪をなびかせて、そこを立ち去った。
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