薬
「っ!」
辛うじて小太刀は避けたが、針は避けられず、沖田はくたっとその場に崩れ落ちる。それを支える星原。
「卑怯でィ……」
「ごめん、剣術じゃさすがに力で勝てそうに無かったから……。でも一応ネタばらしはしたよ?」
恨めしそうに星原を見上げる沖田に、星原が少し悪戯っぽく微笑んでいると周りに隊士たちが集まってきた。
「剣術でも総悟と同じくらいの実力で、プラス針……みたいなそれは何だ?」
土方が星原の手の内にある針を見て、首を傾げる。
「麻酔とか毒とか睡眠薬とか色々塗って、投げたり刺したりして使うんだ、これは。まぁ奇襲用だな。今みたいに正体ばらして使うものじゃない」
星原はクルリと針を指の間で回して見せる。隊士たちも沖田と渡り合ったことで星原の実力を認めたようで、星原は質問攻めに合う。
太刀は使わないのかという質問から、果ては彼氏はいるのかという質問まで種類は様々だ。
「まぁまぁ皆落ち着いて。なんか聞きたいことあるなら後で聞くから」
星原は興奮気味の隊士たちをさっと落ち着かせると、腕の中の沖田をよいしょと軽く背負う。そして、そのままズルズルと自分の部屋まで連れていった。
「玲姉……」
「ん?歩けるか?」
「身体だりぃ……」
「そりゃそうだよ、そういう薬入れたんだから。すぐ薬抜けるから戻るけど、一応解毒しとく?」
「気持ち悪ぃんでしてくだせェ……」
「はいはい」
部屋に着くと、星原は畳に沖田を寝かせ、引き出しを開ける。少しの間ごそごそと中を漁り、茶色の瓶を取り出した。中で液体が揺れる。
「それ、飲むんですかィ……?」
「いや、これは刺す用。こうやって針を浸して……。うん、ちょっと顔向こうにやって」
星原は薬の中に針を少し浸すと、沖田の首を横に倒させた。そして、その首筋に指を滑らしていく。
「……っ、玲姉、くすぐった……っ」
「あ、ごめんごめん、ちょっと我慢して」
星原は指で一番薬が効きやすい場所を探していたのだが、沖田の反応につい悪戯心が芽生える。くすぐったがるところを数度つうっと撫でた。
「……っ!玲姉っ!」
「なんだ?……フフ」
「なんだ?じゃねぇでさァ!くすぐったいって……っ!」
沖田は逃げようとするが、薬のせいで身体を上手く動かせず、悶える。
「ごめん、ちょっと、うん。とりあえず針、刺すから動かないで」
少し黒い笑みを讃えながら、星原は沖田を抑え込み、その首筋にチクリと針を刺す。
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