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「えっ…ぶ、部長が…ですか??」

そんな事ある訳ない、そう反論しようと口を開きかけたところで、魔王様専用の誰も入った事のない部屋から、彼は意気揚々と現れた。

「そう、我が同族に導かれし迷える黒兎を迎え入れた暁として、我と舞踏会に参加してもらう!」
「えっ?…な、……そっ?」

混乱して無様な声を出す柚音の前に何だか分からない紋章みたいな模様の大きな黒い箱を、萬ヶ谷はどっかりと置きそれを開く。

「……な、なんです?…これ」
「ドレスだ」

魅惑的なワインレッドや夜空を思わせる深い青、どれもこれも綺麗で美しいものばかりで柚音は無意識に後退った。
どう見ても自分が着ていい代物じゃない。

「やっぱり魔王様はセンスがいいなぁ〜」

僕も着たいと幸せそうに笑って体にあてがう鷹司誉の方が、そのドレスを魅力的に着こなせてしまうだろう、そう思い目を逸らした。

「黒兎に合うドレスは……この純白か漆黒だな。うむ、試着してくるがいい」
「…いえ、お構いなく。鷹司先輩か中馬先輩にやってください」

しっしっと手で払いのけて帰ろうとする柚音を鷹司誉が阻止するように立ち塞がり、今まで見た事もない鋭く厳しい目が私を射抜いた。

「柚音ちゃん、君は」
「もうよい誉、飽くまで我の気紛れに過ぎん…退屈しのぎの快楽を求めた戯れだ」

言い終わらない内に萬ヶ谷は2人に背を向けて、出てきた部屋にまた引き籠もってしまった。
閉じられた扉の音は静かにハッキリと部屋に響き、萬ヶ谷の悲哀を感じ柚音の額に雫が流れる。

居心地の悪い空気が残された2人を包んで、嫌な沈黙が流れる。
それを壊すべく口火を切ったのは、鷹司誉だ。

「…初めてなんだよ」

え…?
柚音が気まずいながらも目を鷹司誉に向けて、口を挟まず次の言葉を黙って待つ…のが良いのか空気の読めない柚音は分からなかったが、鷹司誉は先程の厳しい顔を潜め優しい笑みを向けて話し始めた。

「魔王様がこんなにいっぱいドレスを女の子に用意するの、初めてなんだよ。新学期が始まると面白そうな子捕まえても、みーんな魔王様にドン引きしちゃって違う部活に逃げちゃうんだ」
「まぁ、かなり痛いですしね…」
「こんな変な部活の奴らと一緒にされたくないって逃げられたりさ。…でも、柚音ちゃんは違う」

どうして違うと言い切れるのか、眉をしかめた。私だって部長に引いてるし、変な部活だって思ってる。

「だって何だかんだ言って逃げないもん。僕も皆も、魔王様も嬉しいよ!」

いつもの腹黒い笑顔とは違う混じり気のない笑顔にスカートをきゅっと握り締めた。

「……先輩、いつもそうすれば男前ですよ?」
「僕は可憐でかよわい男の子なのーっ!」

またいつもの調子に戻った彼は1度にんまりと微笑んで、可愛らしいデコレーションした鞄を掴んで部室の扉に軽やかに走って、おどけて言う。

「それじゃあ柚音ちゃん、いじけた引き籠もり魔王様のご機嫌取りよろしくねー★」

柚音が止める間もなく、部室の扉はバタンと音を立てて閉められた。

呆気に取られながらもゆるゆると萬ヶ谷の部屋に視線を移し、諦めを込めた溜息を吐いた。






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