いかないで、 軍パロと言い張る 「月が綺麗だね…リオンさん」 闇夜に金色が輝いてリオンは目を和らげた。 少しでも揺れたらきらきら眩しくて、リオンの指先はそれを求めた。 触れた一房の柔らかい感触と軽やかな流れ。 擽ったそうに瞑る片目に1つ口づけを落とし、カイルの肩を引き寄せた。 「お前に大事な話がある」 「…言わないで」 カイルのしがみつく手が、それ以上言わせないと力が篭もる。 だとしても言わなければならないと、リオンもカイルの頭を胸に押し付けて、言葉を続ける。 「上層部の命令で戦場に明日行くと決まった。それから、長期戦になるかもしれない」 彼…リオンは恐ろしい程に落ち着き払った口調で淡々と告げた。 怖いものなどないと、感じさせる凛とした声色がカイルにはますます怖くなった。 −−彼が、消えてしまいそうで。 「どうして……リオンさんばかり、軍の人は行かせるの?」 戦場で敵を討てば伐つ分、国民の期待は膨らんで、彼を崇高なる軍人だと称賛する。 もう後戻り出来ないところまで来ていた。 「それは−−」 軍にとって戦力になる捨て駒のようなものだから−−などと伝えたら、カイルは泣くだろう。 「…もう遅い。早く寝ろ」 「嫌だ…まだ眠くないから、いっぱい話そうよ」 1秒でも多くリオンといたいから、カイルは目を必死に開いて充血までさせていた。 眠たい筈の体に鞭を振り、我慢し耐える姿は健気であり痛々しいもので、とてもリオンには見ていられず、カイルをより強く胸へ押し付けた。 「早く寝ろ。明日は僕を見送るんじゃないのか」 「…行かないでよ……ずっと一緒にいてよ…っ」 泣きじゃくるカイルの跳ねる背中を落ち着かせようと撫でるリオンの瞳から、冷たいものが一筋流れた。 「ならばいっそ、駆け落ちしようか」 何処か遠くへ。と、耳元で囁けばゆるゆると顔を上げたカイルが、ほんの少し微笑んだ。 「ほんと?」 「あぁ、なんだったらお前の行きたい場所でもいい」 リオンの悪戯する子供のような笑みにカイルは声を出して笑った。 「約束だからね?破ったら許さないから覚悟しててよ!」 出来もしない約束だと分かっていても、リオンはカイルと小指を絡めて心の中で謝罪した。 やがて、安堵し静かな寝息をたてるカイルをこれでもかという強さで抱きしめながら、リオンは音もたてずに涙を流した。 夜はこんなにも長かっただろうかと、終わらない夜をリオンは滑稽な願いだと思いながらも願わずにさいられなかった。 それでも、この世界の中で“いかないで”と涙する大切なこの子が幸せに生きていける為ならば、リオンは戦う事を選んだ。 −−−−−−−−−−−−−−−− ちょっとした解説。 タイトルの「いかないで、」は察しがついている方もいるかもしれませんが、行かないでと逝かないでをかけています。 予定では特殊組織で戦うかっこいいリオンさんとカイル君のアダルティな軍パロが書きたかった筈なのに………あれ?
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