紅い痕 


※リオンさんが黒い




「あのさ……カイル?」

商店街でたまたま会ったナナリーと、買い出しの手伝いをと思い一緒に並んだ時、ナナリーが少し戸惑った声を出した。

「なに?どうしたの」

するとナナリーの頬はほんのり赤らみ、指を差してきてカイルはきょとんとした顔で彼女の視線の先を辿り、小さな赤い点々にカイルは首を傾げてナナリーを見た。

「……それ、キスマークだよ?カイル」
「キスマーク?」

そのカイルの様子を見て何も知らないのだと分かり、ナナリーは咄嗟に人目のつかない路地に連れて説明を始めた。
普通ならキスの単語でどういうものか予想がつくと思うが、カイルはそういう事にかなり疎い。疎すぎる。
だが、そんなカイルは可愛らしくてナナリーもついお姉さん心に火がついてしまうのだ。

「とりあえず私絆創膏持ってるから貼っときな」
「これって何なの?…痛くないからケガじゃないと思うんだけど…」

カイルの無知丸出しの無垢な質問にナナリーの口は固く噤まって言葉が出て来ない。
これがある程度の知識を持ったマセガキなら軽い気持ちで教えていたかもしれないが、この純粋の塊である少年には余計な知識を与えるのは、罪悪感すら覚える。

それならば、と。
ナナリーはおおよそ目星のついている人物の名を挙げた。




「…ノックぐらいしてから入れ」

言葉こそ辛辣ではあったが部屋に入る事に何も嫌悪も表さず、羽ペンを動かし目線は机の書類に注がれたままだった。

「リオンさんに聞きたい事があって…」

彼が仕事中の時は終わるのをソファーで待ちながら話す事はあるが、横に近寄って来たカイルの気配にリオンは顔を上げ目に入った脇腹の絆創膏に目を細めて、徐にカイルを見上げた。

「リオンさんなら分かるってナナリーから聞いて来たんだけど…」

絆創膏を剥がし見せつけられた脇腹には赤い痕が2つ程淡くついており、リオンはちらりとカイルがどんな表情をしているか見て、静かに喉の奥で笑う。

単純にこれが何なのか聞いているだけの、それがどんな意味を持っているかさえも知らないカイルの顔は本当に暢気なもので、つい意地悪をしたくなりカイルの細い腰を引き寄せ唇を縫い付けた。

「、ぇっ…え?」

突然の意味不明な行動に身じろぎ離れようとするカイルを逃がすものかと、腰の後ろに腕ごと回し深く吸い付けば咄嗟に引いた腰が扇情的で、リオンはカイルを見上げ不敵に笑んだ。

「ほら、お前が知りたがってたキスマークだ」

言われるまま視線を腰に移すと、そこには新しい痕があった。

ナナリーから教えられたものよりも赤く赤く色づく痕が、はっきりとカイルの腰で存在を示している。

「ーーか、っかえる!!」

脱兎の如くリオンから離れ、逃げ出したカイルの様はいじらしいものだった。

リオンは思う。
誰にも触れさせず、誰にも奪われないようにするには証を見せつけてやれば良いのだと。

今日を機にカイルがもっともっと僕だけを考えるようになれば、それこそ悪くないとリオンの口元は緩んだ。



2014.3.21



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