優しい想い出 





「カイル、ちょっと…」
「?」

焚き火に使う薪集めや食料の調達を終え、野宿の準備が整い一息ついていた時、ジューダスにこっそり手招きされカイルは何だろうかと歩み寄る。

「どうしたの?ジューダス」
「…いや、大した事はないが…少し散歩でもしないか?」

旅の疲れもあってかリアラとナナリーは木の下で談笑し、ハロルドは昆虫だかサンプルを採取しに、ロニも少し離れた木陰で昼寝をしていて暇だったカイルは1つ返事で彼の散歩に付き合う事にした。
といっても森の中を歩くだけだが、ジューダスからの誘いはかなり珍しい。
いつも何処かに消えてしまうから、こうやって2人きりで並んで歩くのは言葉を交わさなくても、不思議と楽しいと思った。

「……昔この森に来た事があったんだ」
「…ここに?何で??」

ジューダスが言う“昔”にも何となく違和感を感じたけれど、そこをいちいち追及すればきっと不機嫌になってしまうと思い、カイルはそれには触れずに聞くとジューダスは少し視線を逸らして口を開いた。

「…まぁ、1人で旅をしていた時にここを野宿に使ってたからだ」
「へぇ〜…でも1人で野宿って、なんかつまんなさそう。ジューダスよくこんな森で寝れたね」

今までの野宿を思い返し自分も1人で…と考えたら多分というか、絶対寝れない自信がある。
1人で焚き火なんかをじーっと見てる姿を想像するだけで気が滅入ってしまう。

「慣れてるからな。お前とは鍛え方が違う」
「野宿に鍛えるとかあるの…?」
「だがお前だったら傍で竜巻が起きても寝れるんじゃないのか?」

小馬鹿にした笑みと言葉の響きにムッとして、カイルは無理矢理話を逸らした。

「というかジューダス、皆のとこから離れてるけどどこに行くの?」

ジューダスの進むままに歩いて来たが、彼の迷いのない歩きにただの散歩じゃなさそうだなと、確信は無くとも聞いてみるとジューダスは少し驚いたように目を見張ったが、すぐに口元を緩ませて前を向いた。

「丁度着いたぞ」

ーーえ?
ジューダスの言葉に反射的に彼の顔から前の方へ見て、足が止まった。

一面に花、花、花。
日光に照らされた花達は美しく輝いている。
静かに吹くそよ風に乗って届く甘い香りに、深呼吸する。

「すごい……」

他の言葉が見当たらずそれしか言えなかったが、そんなカイルにジューダスは短く笑い花と花の間を器用に歩き、その向こうへと何も言わずに進みカイルも慌てて花を踏み潰さないよう細心の注意を払って、どんどん行ってしまう彼の背中を追いかけ、広がる景色にまたも言葉を失った。

「……絶景だろう?」

広大な碧い海には幾つかの船が見えた。
それから大地を見下ろせば街があり、そこは目を凝らして見ると行った事のある街でカイルは興奮した。

「あれってハイデルベルク?!」

カイルは旅を始めたばかりの頃を思い出す。
あの時はオレとロニ、リアラとジューダスの4人でリアラの英雄探しの旅に出たんだ…。

「オレ、ジューダスに怒られたんだよね」
「そしてふてくされて逃げ出したんだったな」
「あっあれは、逃げ出したんじゃないし!」
「逃げ出した事に変わりはないだろう」

くつくつと笑って話す彼にカイルも声を出して笑い、頭に浮かんでくる旅の思い出は刺激的で辛くて苦しい事や暖かいものもあって、胸に溢れるこの思いを噛みしめるように目を瞑り、息を吸い彼と向かい合う形に居直り手を取り握り締めた。

「ジューダス、あともうちょっと振り回しちゃうけど……よろしくね!」

ジューダスは目を細めて仮面の奥で不敵に笑い、カイルの手を握り返し宣言する。

「お前の決意…しっかりと見届けてやるさ」

それからしばらく2人は花畑に座り思い出話や他愛もない話に耽り、穏やかな時間を刻んだ。


───…

「そういえばさ…このピンクの花ってなんなの?」
「そんな事も知らないのか……これはスイートピーだ」
「……スイートピー…」

覚えておかないと!…そう笑って答えたカイルに、いつの間にか仮面を外していたジューダスは誰も見た事のない優しく無邪気な笑みを浮かべ、2人はどちらからともなく手を重ねていた。


2014.1.23




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