Bright red strawberry 


苺をもらったんだ、と模擬試合が終わった訓練所に満面の笑顔で走って来るカイルを見て、兵士の間に和やかな空気がふわふわと流れた。

「おぉ〜…真っ赤でうまそうだ」
「カイル君、これどうしたんだい?」
「マリアンさんから余ったのをもらったんですっ…良かったら皆さんにって!」

恐らくデザートの材料で余ったやつだなと少し離れた所で、鎧と兜を脱ぎ汗だくの髪に水筒の水をかけ頭をブルブル振るい、ジョブスはベンチに腰掛け同僚や後輩達と話すカイルを遠目に見つめて、タオルで髪をわしゃわしゃと乾かした。

「ジョブスさん」

軽やかな声がすぐそこから降ってきて、見上げると苺を摘まむ手とカイルの柔らかい笑顔があって、不意な事に心臓が波打ちどくりと跳ねた。

「あげる!おいしいよ」
「…ん、っ…!」

どうした?と開きかけた口に無理矢理ねじ込まれ、ジョブスは出しかけそうになった苺を寸前でとにかく噛んで噛んで、やっとの思いで飲み込んだ。

「ねっ、おいしい?」

カイルはすかさず体に凭れるように隣に座り、やや下から上目遣いに迫ってきてジョブスの体はカチコチに固まり、カイルの腕を押さえ抵抗するぐらいしか出来ずにいる。

「……うまい、けど。な、何かおかしいぜ…お前」
「…おかしくないよ、あーんってしただけです」
「はぁっ?あれがか…?!」

無理矢理ねじ込んだだけだろ、と言ってやりたかったがキラキラした目で見つめられては何も言えない。
厚意なんだか何なんだか分からないが、有り難く思う事にした。

「そっか…まぁ、ありがとな。甘くてうまかったよ」

ツンツンの髪を梳いて周りの兵士にはバレないよう軽く額に触れるだけのキスをして、カイルを見ると顔が茹で蛸状態だ。

「うあ〜ぁ〜!」
「な、何だぁ…?」

腕にぐいぐい顔を押し付け意味不明な奇声を発するカイルを覗き込み、ジョブスの息がひゅっと止まった。

真っ赤になった頬。
少し揺れて煌めいた瞳に、長い睫毛。

そんな顔が至近距離に、しかも腕に擦り付けられている。

「やっぱりジョブスさんかっこいいや…」
「……やっぱり、って何だよ?俺は元々かっこいいぜ」

言っといて恥ずかしくなり目を逸らし、わざとらしく咳払いすれば憎たらしく楽しげに笑うカイルの額に頭突きをお見舞いしてやったら、だいぶ気分が良くなった。

「いったぁ…ジョブスさん石頭だ〜!いや…鉄頭??」

額を撫でて恨めしく見上げるカイルの髪をくしゃくしゃに乱した。

「じゃあ、俺戻る」
「うん」

いまだ拗ねたように尖らせる口を指で触れてみると、肩が跳ねライオンに睨まれる猫みたいにカイルは身を縮めた。
面白い、可愛い反応だ。

「ーー夜、来いよ」
「…っ!」

今度こそ本当に煙が立つ程真っ赤になったカイルを満足そうに見た後、ジョブスは鎧と兜を脇に抱え詰め所へと戻って行った。

誰もいなくなった訓練所で1人残されたカイルは、ジョブスが置き忘れてしまった湿ったタオルをきゅぅ…っと握り締めていた。


2014.1.13



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