午後の微睡み VSのようなDのような 屋敷に残る茶葉の香りと窓から聞こえてくる小鳥達の囀りが、睡魔を引き寄せる。 洗濯に屋敷内の掃除、朝食から夕食までを取り仕切るメイドとシェフに休息はあまりなく、マリアンも仕事が慣れてきたにせよ疲れには逆らえず、ふと溜息を零した。 屋敷の主人はいない。 同僚のメイド達も休憩中で買い出しや読書をほんの少しの休息で楽しんでいた。 マリアンは特にする事もなく、食堂の窓から見える中庭の薔薇をぼんやりと眺めていたところに、ふと陰が落ちた。 「あらジョブスさん…お仕事は終わったの?」 「今やっとってとこ。うちの上司は人使い荒くて大変です」 ははっと苦笑いして答えるジョブスの顔には上司への嫌悪感はなく、マリアンはふんわりと微笑んだ。 「何か持って来ます」 「マリアンさんは休んでろよ。厨房借ります」 「そんな…悪いわ」 「座ってて下さいって!」 どっちがやるかでちょっとした争いに、食堂にいたメイド達の笑い声に気づき、顔を赤らめてようやくマリアンは諦めて椅子へと静かに腰を降ろす。 それを見届けてジョブスは厨房に入って、慣れた手つきで紅茶を淹れた。 ちらりとマリアンを見やると申し訳なさそうにしているから、笑みが自然と漏れる。 ここに兵士として務めてから間もなくして、マリアンと出会った。 初めは可愛らしい女性だと思ったけど、意外に頑固なところが行動の節々に感じられて、ジョブスは任務帰りにこうして立ち寄るのが日課となった。 「はい、レモンティー」 「…ありがとう」 日光の差したレモンティーがきらきらと輝き揺らめいて、ジョブスは瞳を細めた。 「−−綺麗ですね」 ぽつりと零れた言葉にマリアンが不思議そうに首を傾げて、「えっ?」と聞き返すとジョブスは困ったように笑うだけだった。 「何でもないっす」 聞かれなくて良かったと、ジョブスは密かに安堵して自分のレモンティーを口に含んだ。 この屋敷のレモンティーは甘味を抑えた爽やかで上質な慣れない味だが、不思議と優しい味がした。 −−−−−−−−−−−−− ジョブマリは甘味控えめだけど、ある黒髪の方が絡めば多分熱い展開になるはず。 リオンもジョブスも生きてればどんな感じだったんだろう…。口悪いけどジョブスは一度信じたら「…ったく、うちの上司はキツいな」とか言いながらついていって面と向かって意見言える部下だと思う。 友達とまではいかないけど良い感じの上司部下関係になれるんじゃないかと思うと、本当に惜しいし切ない。
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